
はじめに
反復着床不全(RIF)は、良好胚を複数回移植しても妊娠に至らない状態です。2023年にESHREから年齢別のRIF診断基準が発表され、35歳未満では3回以上、35-39歳では4回以上、40歳以上では6回以上の移植失敗、またはPGT-A後の正常核型胚移植2回以上失敗と定義されました。しかし年齢以外のリスク因子については十分に検討されていませんでした。ESHREガイドライン2023に基づき、機械学習を用いて様々な因子がRIFに与える影響を解析した報告をご紹介します。
ポイント
AMHが反復着床不全の最も強力な予測因子であり、慢性子宮内膜炎、子宮内癒着、BMIがそれに続く重要なリスク因子でした。
引用文献
Can Wang, et al. Hum Reprod. 2025 Jun 1;40(6):1138-1147. doi: 10.1093/humrep/deaf042.
論文内容
2019年6月から2022年6月に中国生殖医療施設で実施された15,329ART周期から、ESHREガイドライン2023に基づいてRIF患者298名と対照群2,056名を抽出したコホート研究です。検討された32の変数には、男性因子として男性年齢、乏精子無力症奇形精子症、新鮮・凍結精子、射出・精巣精子が含まれ、女性因子として女性年齢、BMI、基礎FSH・LH・エストラジオール・プロラクチン・テストステロン・AMH値、出産数、流産・子宮外妊娠・生化学的妊娠・帝王切開歴、慢性子宮内膜炎、子宮内膜症、腺筋症、ポリープ、子宮内癒着、卵管水腫、子宮奇形、粘膜下筋腫、多嚢胞性卵巣症候群、甲状腺機能異常、高プロラクチン血症、リウマチ性疾患、反復流産歴が検討されました。ランダムフォレストモデルを用いて予測モデルを構築しました。
結果
32の変数から、AMH高値と出産歴の多さがRIFリスク低下に関連し、慢性子宮内膜炎、子宮内癒着、FSH高値、テストステロン高値、高年齢、ポリープ、反復流産歴、帝王切開歴、多嚢胞性卵巣症候群、リウマチ性疾患がRIFリスク増加に関連していました。予測モデルの AUCは訓練データセットで0.83(95%CI: 0.80-0.86)、テストデータセットで0.78(95%CI: 0.73-0.84)でした。SHAP値解析により、AMHがRIFリスクに最も大きな影響を与え、慢性子宮内膜炎、子宮内癒着、BMI、FSHが2番目、3番目、4番目、5番目に重要なリスク因子であることが判明しました。
私見
AMHが反復着床不全の最も重要な予測因子であることを初めて明らかにしました。従来、年齢が主要なリスク因子とされてきましたが、SHAP値解析だと6番目でより上位があるというこことになります。慢性子宮内膜炎と子宮内癒着が上位のリスク因子であることは、RIFを避けるために子宮内膜チェックを行うことで回避できそうです。
BMIは、体重管理の重要性を再確認させるものです。
AMH値の解釈は難しいです。年齢と独立した因子ですが、①AMHが低いから戻す胚基準が甘くなる、②AMH低いと異数性胚が増える、③AMH高値が保護因子で、PCOSが低下因子であることは矛盾のようにみえる、などなどです。AMH値を過剰チェックすることを誘導するような結果の一人歩きしないような臨床現場での必要が必要なんだと思います。
患者背景の比較(RIF群 vs 対照群):
- 女性年齢:32歳 vs 31歳(p<0.001)
- 基礎FSH:5.63 vs 5.46 IU/l(p=0.019)
- 基礎LH:3.13 vs 3.36 IU/l(p=0.003)
- 基礎テストステロン:0.27 vs 0.29 ng/ml(p<0.001)
- AMH:2.65 vs 3.77 ng/ml(p<0.001)
- 慢性子宮内膜炎:12.4% vs 1.5%(p<0.001)
- ポリープ:11.7% vs 3.2%(p<0.001)
- 子宮内癒着:11.7% vs 2.7%(p<0.001)
- 帝王切開歴:6.7% vs 3.1%(p=0.002)
- 反復流産歴:9.4% vs 4.4%(p<0.001)
文責:川井清考(WFC group CEO)
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