体外受精

2020.08.25

ICSIで妊娠した子供は染色体異常がふえるの?( Hum Reprod. 2020) 

はじめに

1991年にICSIが臨床導入されて以来、世界で500万人以上の児が誕生してきました。一方で、ICSIは侵襲的な手技であること、また非射出精子の使用機会が増えていることから、その安全性についての懸念は依然として残っています。とくに不妊男性では染色体異常の頻度が高いことが知られており、ICSIで妊娠した胎児・児の染色体異常率はこれまで一般集団と比較して高い傾向(1.6%~4.2%)が報告されてきました。今回、単一施設で行われた4267例のICSI妊娠を対象に、出生前および出生後の核型解析結果と父親の精液所見との関連を検討した大規模コホート研究をご紹介いたします。 

ポイント

ICSI妊娠胎児・児のde novo染色体異常率は3.2%で、父親の精子濃度や総精子数の低下と関連していました。 

引用文献

F Belva, et al. Hum Reprod. 2020 Sep;35(9):2149-2162. doi: 10.1093/humrep/deaa162. 

論文内容

ICSIで妊娠した胎児および児の核型異常と父親の精液所見との関連を明らかにすることを目的とした、単一施設におけるレトロスペクティブコホート研究です。
2004年1月から2012年12月までに採卵し、新鮮ICSI受精胚(射出精子または非射出精子由来)の移植により得られた継続妊娠を対象としました。凍結受精胚移植、卵子・精子提供、通常IVF、PGT、IVMによる妊娠は除外しています。出生前検査は絨毛検査(CVS)または羊水検査で実施し、出生後検査は末梢血を用いたGバンド分染法で行いました。妊娠転帰にかかわらず(第2三半期流産、人工妊娠中絶、生児・死産を含む)すべての異常結果を報告しています。母体年齢および精液所見と核型異常との関連はロジスティック回帰で解析し、精液所見の基準値はWHO 2010年マニュアルを用いました。 

結果  

4816例の継続ICSI妊娠のうち、4267例(88.6%)で妊娠転帰の情報が得られました。出生前検査は妊娠の22.3%で施行され、1114胎児で最終診断が得られました。出生前検査が施行されなかった妊娠のうち29.4%で出生後核型解析が行われ、合計1391例の新生児が解析対象となりました。
胎児核型異常は単胎29例・多胎12例の計41例(41/1114;3.7%;95%CI 2.7-4.9)に認められました。このうち36例(3.2%;95%CI 2.3-4.4)はde novo異常で、内訳は数的異常25例、性染色体異常6例、構造異常5例であり、5例は遺伝性の均衡型でした。母体年齢とde novo胎児染色体異常との間に有意な関連は認められませんでした(OR 1.05;95%CI 0.96-1.15;P=0.24)。異常核型が認められた胎児41例中40例は射出精子によるICSIから得られていました。
出生前検査を受けていない児における出生後核型解析では、1391例中14例(1.0%;95%CI 0.6-1.7)で異常が認められ、12例がde novo異常、2例が遺伝性均衡型でした。14例すべてが射出精子によるICSI児でした。
出生前・出生後データを統合すると、母体年齢の上昇に伴いde novo核型異常のオッズは増加しました(OR 1.11;95%CI 1.04-1.19;P=0.002)。35歳以上の母体では2505例中34例(3.2%)、35歳未満では1444例中21例(1.4%)にde novo異常を認めました(P<0.004)。父親の精液所見との関連では、母体年齢を調整した多変量ロジスティック回帰分析において、精子濃度1500万/mL未満(AOR 2.10;95%CI 1.14-3.78;P=0.02)、精子濃度500万/mL未満(AOR 1.90;95%CI 1.05-3.45;P=0.03)、総精子数1000万未満(AOR 1.97;95%CI 1.04-3.74;P=0.04)の場合、児のde novo染色体異常率が有意に高くなりました。一方、精子運動率や非射出精子の使用とde novo染色体異常との間には有意な関連は認められませんでした。 

私見

本研究は、自施設のBonduelleら2002年(Hum Reprod, 2002)の報告(1586例で3.0%の胎児染色体異常)に続く第2コホートとなる大規模単一施設研究です。今回の3.7%という胎児異常率は前報(3.0%)よりやや高くなっていますが、両研究のデザインの相違として、前報が妊娠12週以降を対象としていたのに対し、本研究では妊娠7-9週の最初の超音波検査からの継続妊娠を対象としているため、早期CVSによる13トリソミー1例、18トリソミー3例、21トリソミー2例といった早期人工妊娠中絶例も含まれた点が指摘されています。
de novo染色体異常率3.2%は、Jacobsら(J Med Genet, 1992)の一般新生児集団における0.45%と比較して明らかに高い値でした。一方、前報では性染色体異常の比率が高かったのに対し、本研究では常染色体異常(30/36)が大半を占め、特に数的異常が中心であった点が異なっています。これは早期検査の包含とART妊娠における出生前検査の積極性が影響していると考察されています。
他施設の報告と比較すると、Samliら(Prenat Diagn, 2003)が4.2%、Jozwiakら(Fertil Steril, 2004)が羊水検査のみで1.5%、Loftら(Hum Reprod, 1999)が3.3%と報告しており、研究デザインや対象選択により結果のばらつきがあります。本研究と同様に妊娠初期から包含したLoftらの報告(3.3%)とは近い値となっています。
注目すべきは、出生後新生児のみを対象とした場合の核型異常率1.0%、性染色体異常率0.2%は、一般集団56,952例のコホート(それぞれ0.92%、0.19%)と同程度であった点です。これは、染色体異常を有する妊娠の多くが早期に流産することを反映している可能性があり、分娩まで到達した児では一般集団との差は小さいことを示唆しています。
父親の精液所見との関連については、Bonduelleら2002年の前報でも精子濃度・運動率の低下との関連が示されており、今回の知見はこれを支持するものです。Mazzilliら(Fertil Steril, 2017)は重度男性因子不妊が初期胚の発生能を障害することを示しており、本研究の結果は重度男性因子不妊カップルにおいて、出生前検査やPGTによる正倍数性胚選別を考慮すべきであることを支持していると考えられます。
本研究の限界として、対照群を欠くこと、ART妊娠では出生前検査がより積極的に行われる傾向があるため、サーベイランスバイアスを完全には排除できない点が挙げられています。また、非射出精子由来のICSI例(胎児89例、児126例)は症例数が限られており、今後さらなる検討が必要とされています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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