
はじめに
胚盤胞形成が遅延し、day6以降、さらにはday7や8まで要する症例があり、これらは全胚盤胞の10-15%を占めています。着床前遺伝学的検査(PGT-A)により正倍数性胚の選択が可能となった現在、発育が遅い胚の妊娠能力について詳細な検討が求められており、これらを検証した報告をご紹介いたします。
ポイント
胚盤胞到達に時間を要するほど正倍数性率は低下し、day5胚はday6・7胚より良好な妊娠予後を示すが、発育の遅い胚でも出産に至ることが示されました。
引用文献
Rosa Alhelí Abarca-Rodríguez, et al. J Assist Reprod Genet. 2025 Aug 9. doi: 10.1007/s10815-025-03582-7.
論文内容
本研究は、day5、6、7、8に生検した胚の正倍数性率と生殖予後を評価することを目的とした後ろ向き多施設研究です。2018年1月から2023年12月までに実施された1845体外受精周期でPGT-Aを行った症例を対象とし、7338個の胚盤胞について生検日(5、6、7、8日目)別に正倍数性率を算出し、710例の単一胚移植(SET)の妊娠予後を解析しました。
結果
7338個の生検胚のうち、414例(5.6%)で増幅失敗のため6924個の胚を解析しました。day5生検が5042個(72.8%)、day6が1779個(25.7%)、day7が101個(1.5%)、day8が2個(0.03%)でした。正倍数性率はday5で41.6%、day6で32.7%、day7で27.7%、day8で50%でした。day8の正倍数胚は移植されていません。day5、6、7に生検した胚盤胞において、生化学的妊娠率はそれぞれ62.3%、53.2%、33.3%、着床率は59.8%、50.3%、22.2%、臨床妊娠率は59.7%、42.2%、22.2%、出生率は52.5%、43.2%、22.2%、流産率は12.2%、14.0%、0%でした。
私見
正倍数性率に関する先行研究:
- Hernández-Nieto C, et al. “What is the reproductive potential of day 7 euploid embryos?” Hum Reprod. 2019;34:1697-706では、正倍数性率がday5で54.7%、day6で52.9%、day7で40.8%と段階的に低下することが示されています。
- Liu X, et al. “Clinical outcome analysis of frozen-thawed embryo transfer on day 7.” Front Endocrinol (Lausanne). 2022;13:1082597では、day5で48.8%、day6で35.1%、day7で30.3%という類似の傾向が報告されています。
興味深いことに、正倍数性が確認されているにも関わらず、胚盤胞到達までの時間が長いほど妊娠成功率が低下する理由として、胚の形態学的品質、卵子mRNAの転写エラーやゲノム活性化の障害による着床関連遺伝子発現パターンの破綻などが考えられています。
本研究の限界として、男性不妊、卵巣刺激方法、胚品質、子宮内膜調整方法などの重要な交絡因子の解析が不足していることが挙げられます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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