研究の紹介
参考文献
日本語タイトル
抗酸化剤治療と妊娠成立の可能性:不妊治療を受ける男性を対象としたSUMMERランダム化比較試験
英語タイトル
Antioxidant Treatment and the Chance to Conceive in Men Seeking Fertility Care
The SUMMER Randomized Clinical Trial
de Ligny WR, 他. JAMA Netw Open. 2025 Sep 2;8(9):e2532405. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2025.32405. PMID: 40996763.
はじめに
男性不妊の重要な病態の一つに酸化ストレスがあり、その対策として抗酸化サプリメントが広く用いられています。これまでの比較的小規模な前向き研究では、酸化ストレスが高い症例において精液所見の改善が期待できることが示されてきました。また、体外受精を行う症例においても有用性が示唆されています。
さらに、男性パートナーに対する抗酸化サプリメントの効果をまとめたシステマティックレビューでは、1万例以上を対象とした検討の結果、妊娠予後の改善が弱いエビデンスながらも示されています。一方で、葉酸と亜鉛を用いた大規模前向き研究では、精液所見や出生率の改善は認められず、むしろサプリメント群において精子DNA断片化指数が有意に高くなるという結果が報告されています。
今回ご紹介する研究は、大規模な前向き研究であり、抗酸化サプリメントを男性が内服することで妊娠率の向上や精液所見の改善、生殖医療における治療成績の向上が得られるかどうかを検討したものです。
研究のポイント
抗酸化サプリによる治療の有無により、6か月以内の妊娠率に大きな差はみられませんでした。
精子の状態が変わりやすいと考えられる4〜6か月の時期でも、サプリを飲んだグループで特に良い結果は得られませんでした。精液所見についても、明らかな改善は確認されませんでした。
「抗酸化サプリを飲めば妊娠しやすくなる」とまでは言えず、男性不妊の標準的な治療として積極的におすすめできるものではないと考えられます。
研究の要旨
不妊治療を希望する男性に対する治療法は限られています。抗酸化サプリメントは新しい治療選択肢として広く研究されてきましたが、結果は一貫していません。
目的
不妊治療を希望する男性に対し、抗酸化サプリメントによる治療がプラセボと比較して精液所見や妊娠率を改善するかどうかを評価することです。
デザイン、設定、参加者
SUMMER試験はオランダの21施設(病院および不妊クリニック)で実施された多施設共同、二重盲検、プラセボ対照、ランダム化比較試験です。2018年5月から2024年2月に男性患者が登録され、主要評価項目の追跡は2024年12月に完了しました。対象は、18~50歳の男性と18~43歳の女性パートナーのカップルで、不妊治療を希望し、期待的管理、人工授精(IUI)、体外受精(IVF)、または顕微授精(ICSI)が推奨されたケースでした。排卵誘発のみや両側卵管因子によるIVFは除外されました。男性は抗酸化サプリメント群またはプラセボ群にランダムに割り付けられました。すべてのアウトカムはITT(intention-to-treat)解析を行いました。
介入
抗酸化サプリメント(Impryl)は1日1回6か月間内服されました。成分はベタイン200 mg、L-シスチン200 mg、ナイアシン16 mg、亜鉛10 mg、ビタミンB6 1.4 mg、ビタミンB2 1.4 mg、葉酸400 µg、ビタミンB12 2.5 µgでした。プラセボは外観・包装ともに同一でした。すべてのカップルは標準的な不妊治療を受けました。
主要アウトカムと評価項目
主要評価項目は無作為化から6か月以内の継続妊娠としました。副次的評価項目は精液所見、精子DNA断片化、IVFまたはICSI後の受精率および胚利用率、生化学的妊娠率、臨床妊娠率、妊娠初期流産率、異所性妊娠率、累積妊娠数、妊娠までの期間、有害事象でした。
結果
合計1171名の男性が解析対象となりました(年齢中央値[四分位範囲]34歳[31–38歳]、女性パートナーの年齢中央値32歳[30–35歳])。抗酸化サプリメント群591例、プラセボ群580例でした。6か月以内の継続妊娠率は両群間で有意差がありませんでした(193/571[33.8%] vs 208/555[37.5%]、調整オッズ比[AOR]0.85[95%信頼区間 0.66–1.09]、P=0.20)。精子形成周期(約72日)を考慮した4〜6か月の最適効果期間においては、抗酸化サプリメント群の継続妊娠率がプラセボ群より有意に低い結果でした(69/446[15.5%] vs 95/442[21.5%]、AOR 0.66[95% CI 0.47–0.94]、P=0.02)(表1)。副次的評価項目については、IVFまたはICSI後の妊娠率がプラセボ群で有意に低い結果でしたが、他の項目については有意な差を認めませんでした (表2)。
結論と意義
今回のランダム化比較試験において、抗酸化サプリメントはプラセボと比較して継続妊娠率の改善を示しませんでした。そのため、不妊治療を希望する男性において抗酸化サプリメントの使用は支持されないと考えられます。


*略語
SUppleMent Male fERtility, SUMMER trial
私見
本研究で使用された抗酸化サプリメントは、企業から提供された「Impryl」という製品でした。しかしながら、期待に反して、妊活中の男性においてこの製品を日常的に使用することの明確なメリットは認められませんでした。
これまでの報告、特に日本からの研究を含めると、酸化ストレスの指標が高い場合に限り、抗酸化サプリメントが有効である可能性が示唆されています。また、顕微授精においても酸化ストレスが高い症例では治療成績が悪化することが知られています。したがって、理想的には酸化ストレスの評価を行った上で、必要とされる症例に限定して抗酸化サプリメントを使用することが望ましいと考えられます。
ただし、酸化ストレスの評価が可能な医療機関は限られていると推察されるため、今回の研究結果は、現実的な日常診療の中での妥当な知見といえるでしょう。
今回の試験では、精子形成の周期を考慮した4〜6か月目の妊娠率が、抗酸化サプリメント群でむしろ有意に低下していました。さらに、採卵後の妊娠率においても同様に有意な低下が見られました。これらの結果は、抗酸化サプリメントの使用が場合によってはデメリットとなる可能性を示唆しています。一方、精子DNA断片化指数に関しては有意な差は認められませんでした。
今後は、精液所見や酸化ストレス指標(酸化還元電位など)を測定し、抗酸化サプリメントが有用となる症例を明確にするような研究が求められます。
文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)
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