プレコンセプションケア

2025.11.07

睡眠と原因不明不妊との関連性(RBMO. 2025)

はじめに

近年、ライフスタイル要因が不妊症に与える影響が注目されており、特に睡眠は生殖機能と密接な関係があることが示唆されています。動物実験では睡眠不足や光-暗サイクルの乱れが生殖機能に悪影響を与えることが報告されており、男性の交代勤務も出生率の低下と関連することが知られています。今回、原因不明不妊症における睡眠パラメータと睡眠障害を調査した症例対照研究をご紹介いたします。

ポイント

原因不明不妊では睡眠の質の低下、夫婦間でのクロノタイプの不一致、睡眠時無呼吸症状が関連しており、不妊症カップルに対する睡眠障害のスクリーニングが有用な可能性があります。

引用文献

Gabriela Caetano, et al. Reprod Biomed Online. 2025;51(5):105040. doi: 10.1016/j.rbmo.2025.105040.

論文内容

原因不明不妊における主観的睡眠パラメータとの関連を調査することを目的とした非マッチング症例対照多施設観察研究です。2009年9月から2013年12月にかけて実施されたALIFERT研究の一環として行われました。対象は平均年齢32.6±4.4歳の参加者360名で、不妊男性94名、妊孕性あり男性85名、不妊女性95名、妊孕性あり女性86名が含まれました。参加者は HD-43睡眠質問票、Pittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)、睡眠ログを完了しました。

結果

不妊男性は妊孕性あり男性と比較して就寝時刻が遅く(P = 0.03)、不妊女性は妊娠可能女性と比較して起床時刻が遅く、睡眠潜時(ベッドに入ってから実際に眠りにつくまでの時間)が長く、睡眠時無呼吸症状が多く認められました(P < 0.02)。パートナー間の起床時刻の差は不妊カップルで有意に大きく(P < 0.01)、妊孕性あり対象者では男女ともに中等度の朝型(午後10時〜深夜0時に就寝し、午前8時前に起床するタイプ)が不妊対象者と比較して多く認められました(P ≤ 0.04)。不妊カップルは妊孕性ありカップルと比較してクロノタイプが異なる頻度が高く(P = 0.02)、PSQIコンポーネントで測定された睡眠の質は不妊対象者で妊孕性あり対象者と比較して悪化していました(P < 0.02)。

私見

この研究は睡眠と生殖機能の関係についての重要な知見を提供しています。睡眠の質の悪化が不妊症と関連するという結果は、短時間睡眠が月経周期の乱れ、精子濃度・総精子数・精子形態の悪化と関連することが報告されています(Caetano, et al. Fertil Steril, 2021)。クロノタイプに関しては、朝型が妊孕性ありと関連するという結果は、Toffol, et al.(Chronobiol Int, 2013)やCharifson, et al.(Sleep Health, 2023)の報告と一致しています。
睡眠時無呼吸症状については、女性における不妊症との関連が示されており、これはJhuang, et al.(JAMA Netw Open, 2021)による男性のオッズ比 1.24やLim, et al.(PLoS One, 2021)による女性のオッズ比 2.1という先行研究の結果を支持しています。睡眠時無呼吸は酸化ストレスの増加を介して卵子の質、受精、胚発育、着床に悪影響を与える可能性があり(Agarwal, et al. Reprod Biol Endocrinol, 2012)、視床下部-下垂体-性腺軸を活性化して性ホルモン分泌を変化させることで不妊症に至る可能性が示唆されています(Kloss, et al. Sleep Med Rev, 2015)。
夫婦間でのクロノタイプの不一致は、性行動のタイミングの違いが妊娠機会を制限する可能性があり(Jankowski, et al. Chronobiol Int, 2014)、臨床的に重要な知見と考えられます。今後、客観的な睡眠測定法による追加研究が必要です。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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