一般不妊

2025.11.11

PCOS患者におけるレトロゾール延長投与の妊娠転帰への影響(F S Rep. 2025)

はじめに

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に伴う不妊症に対して、排卵誘発-人工授精は一般的な第一選択治療法です。レトロゾールは、クロミフェン抵抗性PCOS患者によく使用されるアロマターゼ阻害剤です。レトロゾール初回投与で十分な卵胞発育が得られない場合の同一周期内での追加投与(延長投与)について、標準化された方法は確立されておらず、妊娠予後への影響についても十分なエビデンスがありませんでした。こちらに対して妊娠成績を比較検討した報告をご紹介いたします。

ポイント

PCOS女性の排卵誘発-人工授精周期において、レトロゾール単独治療での延長投与(同一周期内での2回目投与)は妊娠率や出生率に有意な悪影響を与えず、妊娠達成に必要な周期数の最適化に有用です。

引用文献

Fields KB, et al. F S Rep. 2025;6:388-93. doi: 10.1016/j.xfre.2025.06.002.

論文内容

PCOS患者における排卵誘発-人工授精周期内でのレトロゾール2回目投与が妊娠予後に与える影響を検討することを目的としたレトロスペクティブコホート研究です。2021年から2023年にかけて、シンシナティ大学ヘルスセンター生殖医療センターで実施されました。対象は20-42歳のPCOS診断を受けた患者183名405周期でした。レトロゾール単独使用周期のみを対象とし、クロミフェンやゴナドトロピン併用周期は除外されました。レトロゾール単回投与で十分な反応が得られた周期(333周期)と、2回目投与が必要であった周期(72周期)を比較しました。
月経周期3-5日目からレトロゾール2.5-10mg/日を5-10日間投与し、初回投与終了後のモニタリング超音波検査で10mm以上の卵胞が認められない場合(卵胞発育不良)に、同量または増量での追加5-7日間投与を行いました。卵胞が平均直径20-21mmに達した時点でhCG 250μg皮下注射による排卵誘発を必ず実施し、24または36時間後にIUIを施行しました。年齢とBMIで調整したロジスティック回帰分析により、単回投与群vs延長投与群における妊娠関連評価項目を検討しました。

結果

患者平均年齢は31.5±4.4歳で、延長投与群(30.0±4.0歳)は単回投与群(32.3±4.2歳)より有意に若年でした(P<0.001)。延長投与群では予想通りhCG投与日は遅くなり(16.7±2.3日目 vs 12.6±1.7日目)、超音波検査回数も増加しました(3.3±0.7回 vs 2.2±0.5回)。延長投与周期の妊娠率は15.3%(11/72)で、単回投与周期の13.5%(45/333)と有意差を認めませんでした(OR 1.15; 95%CI 0.56-2.36)。年齢とBMIで調整後も、両群間に有意差は認められませんでした。出生率についても、延長投与群11.1%(8/72)、単回投与群10.0%(33/333)で有意差はありませんでした(調整後OR 0.87; 95%CI 0.36-2.11; P=0.76)。注目すべきは双胎率で、延長投与群50.0%(4/8出生)、単回投与群12.2%(4/33出生)と延長投与群で著明に高い傾向が認められました。

私見

この報告、双胎率が高いんです。hCGをうっているせいなのか、国内診断基準と違ってPCOSロッテルダム診断基準のなかには排卵障害なしの患者もふくまれているか詳細は不明です。複数排卵があるからこそ、周期あたり妊娠率も高いんでしょうね。
医療経済的観点からも、周期キャンセルよりも延長投与による周期継続が治療効率の向上に寄与する可能性があります。(国内では保険適用外での使用となる可能性が高いですが。。。)

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# クロミフェン、AIなど

# 人工授精

# 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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