体外受精

2025.11.24

2つの染色体異常を持つモザイク胚でも健康児が出生した症例(J Assist Reprod Genet. 2025)

はじめに

着床前遺伝学的検査(PGT-A)の技術進歩により、モザイク胚の検出精度が向上していますが、複数の染色体異常を有するモザイク胚は移植優先度が最も低く設定されています。しかし、このような胚でも自己修復機能により正常出産に至る可能性が示唆されています。今回、monosomy 11 (45%) とsegmental monosomy 18 (45%) を併せ持つモザイク胚が、同一周期の正倍数性胚と同時移植され、モザイク胚のみが着床し健康な男児を出産した貴重な症例をご紹介します。

ポイント

2染色体にモザイクを持つ胚でも、自己修復により正常胎児に発育し、同一環境で移植された正倍数性胚ではなく、モザイク胚が出生にいたりました。

引用文献

Hai-Wei Jao, et al. J Assist Reprod Genet. 2025. doi: 10.1007/s10815-025-03692-2.

論文内容

原因不明不妊の35歳女性(G0P0)がIVF治療を受けました。1周期の卵巣刺激により14個の卵子を採取し、最終的に7個の胚盤胞を獲得しました。患者は最初に単一胚盤胞移植(4BB)を受けましたが着床せず、その後の2胚移植(両方4BB)では生化学的流産でした。患者はその後ERA検査を受け(結果:112時間)、4個の胚盤胞にNGS法を用いたPGT-Aを実施しました。結果は正倍数性胚1個(3BB、男性)、正倍数性胚1個(4BC、女性)、モザイク胚1個(4BB, monosomy 11 (45%), and segmental monosomy 18 (45%, 62 MB) with a small terminal segmental trisomy (18q22.1–23, 15.7 MB)、男性)でした。最後の胚盤胞は生検後変性しました。

結果

患者は最初に正倍数性胚(3BB、男性)の単一胚移植を受けましたが着床しませんでした。最終的に、残りの正倍数性胚(4BC、女性)とモザイク胚(4BB、複数モザイク胚、男性)を同時移植しました。移植後9日目(4週0日相当)の血清hCG値は166.8 IU/L、12日目(4週3日相当)には681.5 IU/Lに上昇しました。移植後16日目(5週0日相当)に胎嚢(平均胎嚢径6.3mm)が確認されました。妊娠17週1日に羊水穿刺およびarray CGH検査を実施し、羊水中の全細胞の核型は46,XYで、array CGHでは異常を認めませんでした。胎児が男性であることから、着床した胚盤胞はモザイク胚であると判断されました。妊娠中に妊娠糖尿病を発症しましたが、食事療法のみで良好にコントロールされました。妊娠37週5日に自然経腟分娩により健康な男児を出産しました。

私見

Viotti et al.の研究では、モザイク胚移植250例中、妊娠中に確認された持続的染色体モザイクの発生率は約1.2%でした(M. Viotti, et al. Fertil Steril, 2023)。また、セグメンタルモザイクについて、栄養外胚葉生検と内細胞塊の一致率は33%と低く、栄養外胚葉でセグメンタルモザイクと診断された63%が内細胞塊では正倍数性であったとの報告があります(Cheng EH, et al. Int J Mol Sci, 2025)。
一方で、11番染色体モザイクは自己修復により二倍体に戻る可能性がありますが、片親性ダイソミー(UPD)のリスクも存在します。11番染色体UPDはBeckwith-Wiedemann症候群(約20%がUPDによる、過成長・臍帯ヘルニア・巨舌症・5-10%で腫瘍発症リスク)やSilver-Russell症候群(約30-60%がUPDによる、子宮内発育遅延・成長障害)と関連することが知られています。COGENガイドライン2017では、複数の染色体にわたり40%以上のモザイク率を示す胚は最低優先度とされていますが、本症例のように45%のモザイク率でも正常出産が可能であることが示されました。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 染色体

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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