ヒトの卵子は周りを半透明のゼリー状の透明帯と呼ばれる殻に全体を覆われています。この透明帯、文字通り、半透明なので中の卵子本体が透けて見えます。透明帯にはいくつか大事な役割があります。その一つが、多精子を防ぐ機能です。

卵子に精子を振りかける媒精では、卵子1個当たり約2万個の精子を振りかけます。卵子の中に一番目の精子が入ると、卵子はそれを察知して、二番目以降の精子が卵子の中に入る(多精子)のを防ぐために透明帯でブロックします。これが多精子を防ぐ機能になります。
こちらは透明帯が多精子を防いでいるイメージになります。3時方向の精子が一番目に卵子の中に入ります。卵子が入ったことを察知した卵子は透明帯を固くして(透明帯が赤くなります)、二番目以降の他の精子が卵子の中に入れないようにブロックします。
この重要な役割を担っている透明帯ですが、受精する前と後で大きさが変わります。具体的に言うと受精前の透明帯の外径は166μm(顕微授精をする前の卵子10個分の透明帯の外径を調べた平均)でしたが、受精後の透明帯の外径の平均は155μm(媒精で受精した受精胚10個分の透明帯の外径を調べた平均)と受精前に比べて11μm小さくなっていました。
受精の後に透明帯が小さくなるメカニズムは明らかではありませんが、多精子を防ぐ機能が影響していると考えられます。二番目以降の精子が入るのを防ぐために透明帯をブロックする時に透明帯がキュッと引き締まることで小さくなっているのではないかと考えています。
培養士にとって大事なのは、卵子の大きさがそれぞれの成長過程で変わるので、それを知って、そのサイズに合った道具を作って受精胚の取り扱いをすることになります。
文責:平岡謙一郎(亀田IVFクリニック幕張 培養管理室長/生殖補助医療管理胚培養士)
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