
はじめに
子宮内膜症は「生殖可能年齢女性の10%」と言われてきましたが、この数値の根拠となる研究の多くは1980年代の文献に基づいており、真の頻度は不明でした。本研究は、JMDC社が契約している「健康保険組合」のデータ(JMDC保険者データベース)を用いて、2005年1月から2023年7月までの約490万人の女性を対象に、子宮内膜症の有病率、診断率、治療パターンを分析した初めての包括的疫学研究です。ICD-10コードに基づく診断と薬物治療の実態から、日本における子宮内膜症疫学について報告していますので取り上げさせていただきます。
ポイント
50歳までに約3人に1人の女性が子宮内膜症の診断を受け、5人に1人が薬物治療を必要としていました。
引用文献
Mizuki Ohashi, et al. Reprod Biomed Online. 2025. doi: 10.1016/j.rbmo.2025.105379.
論文内容
JMDC社が契約している「健康保険組合」のデータ(JMDC保険者データベース)を用いた2005年1月から2023年7月までのコホート研究です。15歳以上で2年以上の追跡データを持つ女性4,917,037人を対象としました。主要評価項目は、子宮内膜症の有病率、年齢別診断率、推定累積診断率でした。子宮内膜症の診断はICD-10コードN80に基づき、子宮腺筋症(N800)、子宮内膜症性囊胞(N801)のサブグループ解析も実施しました。「薬物治療を伴う子宮内膜症」は、診断前後6か月以内にLEP、ジエノゲスト、LNG-IUS、リュープロレリン、レルゴリクスのいずれかが処方された症例と定義しました。
結果
4,917,037人が解析対象となりました。このうち285,309人(5.8%)が15〜50歳で子宮内膜症と診断されました。子宮内膜症の有病率は2006年の1.02%(95%CI: 0.95-1.11)から2022年には3.62%(95%CI: 3.60-3.64)へと約3.5倍に増加しました。薬物治療を伴う症例も0.08%から2.57%へと大幅に増加しました。子宮腺筋症は0.17%から0.87%へ、子宮内膜症性囊胞は0.11%から0.53%へと増加しました。
最も高い診断率は26歳で観察され、全体の子宮内膜症で1.77/100人年(95%CI: 1.73-1.81)、薬物治療を伴う症例で1.03/100人年(95%CI: 1.00-1.06)でした。子宮腺筋症の診断率は年齢とともに徐々に増加し、高齢群では子宮内膜症性囊胞よりも高くなりました。2006年から2022年にかけて、すべての年齢群(20-29歳、30-39歳、40-49歳)で診断率が一貫して増加しました。特に20-29歳群では顕著な増加が見られ、2006年の約0.9%から2022年には約1.8%へと倍増しました。
全体の子宮内膜症では、30歳までに16.90%(95%CI: 16.67-17.13)、40歳までに28.43%(95%CI: 28.12-28.74)、50歳までに37.34%(95%CI: 36.99-37.70)でした。薬物治療を伴う症例では、30歳までに10.48%(95%CI: 10.30-10.66)、40歳までに15.74%(95%CI: 15.51-15.98)、50歳までに20.08%(95%CI: 19.80-20.36)でした。子宮腺筋症は10.37%(95%CI: 10.14-10.59)、子宮内膜症性囊胞は5.80%(95%CI: 5.63-5.97)でした。初回治療薬は年齢により異なり、若年者ではLEPが最も多く処方され、年齢とともにジエノゲストの使用が増加しました。
私見
有病率が「ある時点で診断を受けている人の割合」であるのに対し、推定累積診断率は「15歳から50歳までの生涯で少なくとも一度は診断を受ける確率」であることを反映しています。
26歳で診断率が最も高くなる理由は、月経困難症が日常生活に与える影響を自覚して婦人科を受診する機会が増える時期であるからなのでしょうか。「診断率」のピークであり、必ずしも「発症率」のピークではないことを理解しておくことも重要かと思います。
レセプトベースなので、子宮内膜症の有病率と一致するわけではないのになぜ重要な結果なのか?ですが、私個人としては患者様に内膜症の日本の実情を話すきっかけになること、内膜症の薬物治療をしている女性割合がわかったことが重要な指標かと考えています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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