体外受精

2026.03.23

帝王切開既往女性の凍結融解胚移植における子宮内膜厚みと妊娠予後(F&S Reports. 2026)

はじめに

帝王切開歴が体外受精の着床率や出生率を低下させる可能性が示唆されていますが、そのメカニズムは不明です。提案されている機序には、術後癒着や帝王切開瘢痕ニッチ(子宮峡部憩室)の形成があり、これらが子宮内膜の体液貯留、子宮内炎症、または子宮内膜の線維化に寄与する可能性があります。しかし、帝王切開歴が凍結融解胚移植周期における子宮内膜の厚みに影響を与えるかどうかは十分に解明されていません。帝王切開既往女性の凍結融解胚移植周期における子宮内膜厚を評価とし妊娠予後を調査した報告をご紹介いたします。

ポイント

帝王切開既往女性は、子宮内膜厚は経腟分娩既往女性と同等であるものの、子宮内膜体液貯留による周期キャンセル率が高く、出生率が低下する可能性があります。

引用文献

Clarke EA, et al. F&S Reports. 2026. doi: 10.1016/j.xfre.2025.12.006.

論文内容

2012年1月から2024年12月まで実施された多施設レトロスペクティブコホート研究です。以前に1回の出産歴があり、その後に自己卵子による単一胚凍結融解胚移植周期を開始した患者を対象としました。患者は前回の分娩様式(帝王切開または経腟分娩)により群分けされました。
主要評価項目は最終内膜評価時の子宮内膜厚でした。副次評価項目には、薄い子宮内膜または体液貯留による凍結融解胚移植周期のキャンセル率、生化学妊娠率、臨床的妊娠率、出生率が含まれました。サブグループ解析として、正倍数性胚移植周期のみの評価、およびホルモン調整周期または自然周期別の子宮内膜の厚みの評価を行いました。
対象は、帝王切開群5,149周期と経腟分娩群5,982周期の合計11,131周期が含まれました。全体の凍結融解胚移植周期のキャンセル率は4.4%(n=487)で、帝王切開群でn=249、経腟分娩群でn=238でした。残りの10,644周期のうち、帝王切開群が4,900周期、経腟分娩群が5,744周期でした。
患者背景は両群で概ね類似していましたが、帝王切開群で年齢がやや高く(卵子採取時:33.8±3.9歳 vs. 32.8±3.7歳、p<0.01; 凍結融解胚移植時:36.5±3.9歳 vs. 35.4±3.7歳、p<0.01)、BMIもやや高値でした(26.7±5.7 kg/m² vs. 25.2±5.1 kg/m²、p<0.01)。内膜調整方法は、両群ともホルモン調整周期が約90%(帝王切開群:91.1%、経腟分娩群:89.8%)、自然周期が約10%(帝王切開群:8.9%、経腟分娩群:10.2%)でした(p=0.04)。帝王切開群では着床前遺伝学的検査の使用がやや多く(41.0% vs. 34.0%、p<0.01)、胚移植の難易度がやや高い傾向がありました(容易な移植:87.3% vs. 90.3%、p<0.01)。

結果

最終内膜評価時の子宮内膜厚は両群で同等でした。未調整データでは、帝王切開群10.7±2.3mm、経腟分娩群10.7±2.2mm(p=0.40)でした。年齢、BMI、不妊治療施設で調整後も、帝王切開群10.4mm [95%CI 10.3-10.5mm]、経腟分娩群10.4mm [95%CI 10.3-10.4mm]とに同等でした(p=0.35)。
内膜調整方法別のサブグループ解析でも同様の結果が得られました。ホルモン調整周期では、帝王切開群10.4mm [95%CI 10.4-10.5]、経腟分娩群10.4mm [95%CI 10.3-10.5]で有意差はありませんでした(p=0.56)。自然周期では、帝王切開群10.0mm [95%CI 9.7-10.3]、経腟分娩群9.9mm [95%CI 9.5-10.2]で、こちらも有意差は認められませんでした(p=0.17)。自然周期の方がホルモン調整周期と比較してやや薄い傾向がありましたが、これは両群に共通していました。
薄い子宮内膜による凍結融解胚移植周期のキャンセル率は両群で同等でした(帝王切開群:1.3%、経腟分娩群:1.2%、p=0.70; aRR 1.02 [95%CI 0.72-1.43])。しかし、子宮内膜体液貯留によるキャンセル率は帝王切開群で有意に高くなりました(1.0% vs. 0.5%、p<0.01; aRR 2.22 [95%CI 1.40-3.58])。子宮内膜の問題(薄い内膜または体液貯留)による全体的なキャンセル率は、帝王切開群で高くなりました(2.3% vs. 1.7%、p<0.05; aRR 1.34 [95%CI 1.02-1.77])。
妊娠予後については、帝王切開歴既往女性は経腟分娩既往女性と比較して出生率が低くなりました(49.5% vs. 53.0%、p<0.01; aRR 0.95 [95%CI 0.90-0.98])。生化学妊娠率も帝王切開群で低下していました(69.1% vs. 73.3%、p=0.02; aRR 0.94 [95%CI 0.90-0.99])。臨床的妊娠率も同様に低下していました(60.5% vs. 64.1%、p<0.01; aRR 0.95 [95%CI 0.90-0.98])。一方で、生化学的流産率(8.0% vs. 8.7%、p=0.16)、臨床流産率(10.6% vs. 10.6%、p=0.39)、異所性妊娠率(0.7% vs. 0.4%、p=0.09)は両群で同等でした。
正倍数性胚を移植した患者のサブグループ解析でも同様の傾向が見られました。帝王切開群では出生率が低くなりました(55.3% vs. 60.3%、p<0.01; aRR 0.91 [95%CI 0.84-0.98])。生化学妊娠率は72.9% vs. 77.3%(p=0.11)、臨床的妊娠率は64.4% vs. 69.6%(p=0.03; aRR 0.92 [95%CI 0.85-0.99])でした。生化学的流産率(8.0% vs. 7.2%、p=0.23)と臨床流産率(9.1% vs. 9.4%、p=0.8; aRR 0.95 [95%CI 0.77-1.17])は両群で同等でした。

私見

妊娠予後については、帝王切開歴のある患者で生化学妊娠率、臨床的妊娠率、出生率のいずれも低下することが示されました。これはWang Y, et al. (Curr Med Sci, 2017)、van den Tweel MM, et al. (Hum Fertil, 2022)、Vissers J, et al. (Hum Reprod, 2020)、Gale J, et al. (Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol, 2022)などの先行研究と一致しています。一方、Patounakis G, et al. (Fertil Steril, 2016)やWang L, et al. (Front Endocrinol, 2022)は有意差を認めなかったと報告していますが症例数が少ないからかもしれません。
帝王切開歴が着床と出生率を低下させるメカニズムは質的な変化でしょうか。子宮内膜の微生物叢の変化(Yang X, et al. Front Med, 2021; Hsu I, et al. BMC Pregnancy Childbirth, 2022)、子宮瘢痕による子宮収縮能の低下(Naji O, et al. Ultrasound Obstet Gynecol, 2012; Gora S, et al. Reprod Sci, 2018)などが報告があります。
帝王切開後の不妊治療再開時には子宮形態を評価し、様々な状態の説明をしていく時代になってきたのかもしれません。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 子宮内膜厚、形態

# 帝王切開

# 帝王切開瘢痕症候群

# 凍結融解胚移植

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

凍結融解胚移植における妊娠初期E2・P4値(Hum Reprod. 2025)

2025.06.10

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

2025.06.09

黄体補充前卵胞サイズは修正排卵周期凍結融解胚移植成績に影響を与えない(F S Rep. 2024)

2025.05.22

凍結融解胚移植における子宮内膜調整方法の成績比較(Lancet. 2024)

2025.04.14

凍結融解胚移植における内膜調整プロトコルの違い(Cochrane Database Syst Rev. 2017)

2025.04.08

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

高齢女性における二個胚移植の臨床結果(当院関連報告)

ART不成功におけるタクロリムス治療(J Reprod Immunol. 2026)

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

体外受精児や人工授精児と自然妊娠兄弟の出生時特性の比較(Fertil Steril. 2026)

2026.04.01

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30