
はじめに
凍結融解胚移植は世界的に増加し、現在では全胚移植の60%以上を占めています。凍結融解胚移植には、自然排卵周期とホルモン調整周期があります。これまでの無作為化比較試験は妊娠率や出生率に焦点を当てており、産科・新生児合併症リスクを評価するには検出力が不十分でした。観察研究では、ホルモン調整周期が妊娠高血圧症候群、早産、分娩後出血、巨大児、large-for-gestational-age児などのリスク上昇と関連することが報告されています。今回、排卵がある女性における両周期の有効性と安全性を主要評価項目として比較した大規模多施設無作為化比較試験(PnROVE試験)をご紹介いたします。
ポイント
排卵がある女性の凍結融解胚移植において、自然排卵周期はホルモン調整周期と健康な出生率が同等であり、妊娠高血圧症候群や産科合併症リスクは低下しました。
引用文献
Daimin Wei, et al. BMJ. 2026;392:e087045. doi: 10.1136/bmj-2025-087045.
論文内容
排卵のある女性において、凍結融解胚移植前の子宮内膜調整として自然排卵周期がホルモン調整周期と比較して、健康な出生率の上昇および妊娠高血圧症候群/子癇のリスク低下をもたらすかを検討することを目的とした、中国24施設で実施された多施設・並行群間・評価者盲検の無作為化比較試験です。
20〜40歳で規則的な月経周期(24〜38日)を有し、凍結単一胚盤胞移植を予定している排卵性女性を対象としました。少なくとも1個のガラス化保存胚盤胞(D5またはD6凍結、Gardner基準で4BC以上)を有する症例が組み入れられ、卵子提供・凍結卵子由来・再凍結胚盤胞、過去2回以上の臨床妊娠未到達既往、内膜菲薄化(<7mm)による周期キャンセル既往、子宮内癒着既往、未治療粘膜下子宮筋腫、未治療子宮留水症、抗リン脂質抗体症候群、SLE等は除外されました。4376人が1:1で自然排卵周期群(n=2185)とホルモン調整周期群(n=2191)に層別ブロック割付されました。自然排卵周期群では月経8〜10日目から超音波で卵胞発育をモニタリングし、優位卵胞14〜16mmから血中LH・E2・Pを測定し、自発的LHサージあるいは優位卵胞≥17mm時にhCG 4000〜8000IUによるトリガーで排卵を確認しました。ホルモン調整周期群では月経2〜3日目から経口エストロゲン6〜8mg/日を投与し、内膜厚≥7mmかつ血中P<1.5ng/mLでプロゲステロン投与を開始しました。主要評価項目は健康な出生(在胎37週以降の単胎生児出生、出生体重2500〜4000g、重大な先天異常なし)と妊娠高血圧症候群/子癇、副次評価項目は周期キャンセル、生化学的妊娠、臨床妊娠、継続妊娠、流産、異所性妊娠、出生、出生体重、母児合併症でした。
結果
Intention-to-treat解析において、出生率は自然排卵周期群41.6%(910/2185) vs. ホルモン調整周期群40.6%(890/2191)で(RR 1.03; 95%CI 0.96-1.10; P=0.49)、有意差を認めませんでした。一方、臨床妊娠症例における妊娠高血圧症候群リスクは自然排卵周期群で有意に低値でした(2.9%(38/1302) vs. 4.6%(61/1326); RR 0.63; 95%CI 0.43-0.94; P=0.02)。特に晩発性(在胎34週以降)妊娠高血圧症候群(2.6% vs. 4.4%; RR 0.59; 95%CI 0.39-0.89; P=0.01)および重症徴候を伴わない妊娠高血圧症候群(1.4% vs. 2.9%; RR 0.48; 95%CI 0.28-0.84; P=0.008)で顕著でした。子癇は両群とも認めませんでした。第1三半期流産(12.1%(158/1302) vs. 15.2%(201/1326); RR 0.80; 95%CI 0.66-0.97; P=0.02)、妊娠高血圧症候群を含む妊娠高血圧性疾患(6.8% vs. 10.0%; RR 0.69; 95%CI 0.53-0.89; P=0.004)、癒着胎盤スペクトラム(1.8% vs. 3.6%; RR 0.51; 95%CI 0.31-0.83; P=0.005)、帝王切開率(69.5%(776/1117) vs. 75.6%(831/1100); RR 0.92; 95%CI 0.87-0.97; P=0.001)、分娩後出血(2.0% vs. 6.1%; RR 0.32; 95%CI 0.20-0.52; P<0.001)も自然排卵周期群で低値でした。一方、初回内膜調整時の周期キャンセル率は自然排卵周期群で有意に高値(16.2%(354/2185) vs. 11.5%(251/2191); P<0.001)で、主原因として卵胞発育不全あるいは卵胞発育停止でした。臨床妊娠率、継続妊娠率、出生率、出生体重、large-for-gestational-age・small-for-gestational-age発生率、新生児合併症、先天異常リスクには両群間で差を認めませんでした。事前規定のper protocol解析、施設調整解析、サブグループ解析(年齢<35歳/≥35歳、BMI区分、IVF/ICSI/PGT-A別)、自然排卵周期サブタイプ別(自発vs. hCGトリガー)、黄体期サポート種類別解析もITT解析と一致した結果でした。
私見
妊娠高血圧症候群高リスク群(38歳以上、肥満症例)ではリスク軽減というでは自然排卵周期が好ましいと考える一方、自然排卵周期は受診回数負担増大と周期キャンセル率の上昇(16.2% vs. 11.5%)という欠点があり、患者の精神的・経済的負担を考慮した個別選択が必要です。
過去の内膜調整における主要論文を提示しておきます。
- Ho VNA, et al. Lancet. 2024.
ベトナムRCT、自然周期・修正自然周期・ホルモン調整周期で出生率に差なし - Liu X, et al. PLoS Med. 2025.
COMPETE試験RCT、自然周期 vs. ホルモン調整周期で出生率に差なし、Ho VNA 2024と同様の所見 - Bellver J, et al. Placenta. 2025.
途中打ち切りRCT、正倍数性胚移植において妊娠高血圧症候群リスク差を確認 - Busnelli A, et al. Hum Reprod. 2022.
メタアナリシス、ホルモン調整周期で妊娠高血圧症候群・早産・分娩後出血リスク上昇 - Zaat TR, et al. Hum Reprod Update. 2023.
メタアナリシス、同様の知見、黄体期サポートの影響も検討 - Moreno-Sepulveda J, et al. Reprod Biomed Online. 2021.
メタアナリシス、自然周期で周産期予後良好 - Rosalik K, et al. Hum Reprod Update. 2021.
メタアナリシス、ホルモン調整周期で出生体重高値・LGA増加傾向
文責:川井清考(WFC group CEO)
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