
はじめに
着床前遺伝学的検査(PGT)において、栄養外胚葉(TE)生検は正倍数性胚盤胞を選別するための標準的手技であり、凍結融解胚移植(FET)サイクルにおける妊娠率・出生率の向上に大きく貢献しています。生検時のレーザー開口部からの完全孵化や、凍結融解時の浸透圧変動・透明帯硬化による脆弱化によって、移植時に透明帯(ZP)が消失した状態の胚盤胞が偶発的に生じることがあります。しかし、透明帯消失が妊娠・産科・周産期アウトカムに与える影響については一致した見解が得られていません。今回、PGT-FET周期における透明帯消失の影響を傾向スコアマッチング(PSM)を用いて検討した後ろ向きコホート研究をご紹介いたします。
ポイント
PGT-FET周期において透明帯消失は妊娠・産科・周産期アウトカムに独立した影響を与えず、胚の発育ステージと形態評価がより重要な予測因子でした。
引用文献
Fang J, et al. Fertil Steril. 2026 Apr;125(4):650-659. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.10.003.
論文内容
凍結融解正倍数性胚盤胞移植周期における透明帯(ZP)消失が、臨床的・産科的・周産期的アウトカムに与える影響を評価することを目的とした後ろ向きコホート研究です。中国施設において、2016年3月から2021年12月にかけて実施された1,024件のPGT-FETサイクルを対象としました。凍結融解単一正倍数性胚盤胞移植周期を、透明帯温存群(ZP intact群、n=761)と透明帯消失群(ZP free群、n=263)に分類し、傾向スコアマッチング(PSM、1:1)を用いて両群を比較しました。主要アウトカムは出生率とし、副次アウトカムとして臨床妊娠率、流産率、帝王切開率、在胎週数、出生体重、先天奇形率を評価しました。凍結方法は全例Kitazato社製キットによるガラス化法を使用し、Cryotopキャリアに載置後、液体窒素中に保存しました。融解は移植当日に実施し、融解後2時間のG2-PLUS培地(Vitrolife社)による培養後に移植を行いました。PSMの共変量には、母体年齢・BMI・不妊期間・子宮内膜準備プロトコル・子宮内膜厚・PGTカテゴリ・胚発育ステージ・胚質・不妊タイプ・移植回数・採卵回数を用いました。
結果
PSM前のベースライン特性では、ZP free群はZP intact群と比較してday 6胚盤胞の割合が著しく高く(78.71% vs. 21.02%、P<.001)、採卵回数も多い傾向にありました(3.43±2.08回 vs. 2.74±1.23回、P<.001)。母体年齢・BMI・不妊期間・子宮内膜厚・内膜準備プロトコル・PGTカテゴリの分布には両群間で有意差は認められませんでした。
PSM前の妊娠アウトカムでは、ZP free群はZP intact群と比較して臨床妊娠率が有意に低く(51.71% vs. 63.73%、P=.001)、出生率も有意に低い結果でした(44.11% vs. 56.64%、P<.001)。また帝王切開率はZP free群で有意に高い値を示しました(81.03% vs. 70.30%、P=.018)。一方、流産率・双胎率・在胎週数・出生体重・先天奇形率については両群間に有意差は認められませんでした。
PSM後(各群213サイクル)の比較では、臨床妊娠率(ZP free群53.52% vs. ZP intact群54.46%)、出生率(ZP free群45.54% vs. ZP intact群49.77%)、流産率(ZP free群13.16% vs. ZP intact群7.76%)、帝王切開率(ZP free群80.41% vs. ZP intact群74.53%)のいずれも両群間に統計学的有意差は消失しました(すべてP>.05)。双胎率・在胎週数・出生体重・先天奇形率・妊娠合併症率についても有意差は認められませんでした。
出生率に関する多変量ロジスティック回帰分析では、胚発育ステージ(day 6 vs. day 5:OR 0.70、95%CI 0.51–0.97、P=.029)および胚盤胞グレード(不良 vs. 良好:OR 0.47、95%CI 0.32–0.71、P<.001)が有意な独立予測因子として特定されました。ZP状態は多変量解析において出生率の有意な独立予測因子ではありませんでした(OR 0.74、95%CI 0.53–1.04、P=.083)。帝王切開率に関しては、母体年齢(OR 1.09、95%CI 1.03–1.16、P=.003)および子宮内膜厚(OR 0.83、95%CI 0.72–0.97、P=.015)が有意な予測因子であり、ZP状態は独立した予測因子ではありませんでした(OR 1.84、95%CI 0.99–3.42、P=.056)。
初回FETサイクルのサブグループ解析では、PSM前においてZP free群でZP intact群と比較して臨床妊娠率(53.06% vs. 66.13%、P<.001)・出生率(46.43% vs. 59.00%、P=.002)が有意に低く、帝王切開率(81.32% vs. 70.60%、P=.041)が有意に高い結果でしたが、PSM後にはこれらの差異は消失し(臨床妊娠率56.41% vs. 53.90%、P=.656、出生率49.36% vs. 49.35%、P=.999)、両群間で同等の成績が示されました。2回以上の移植サイクルを有する患者のGEE解析においても、PSM後の出生率(OR 0.68、P=.369)・帝王切開率(OR 3.33、P=.164)ともに有意差は認められませんでした。
私見
透明帯消失と生殖アウトカムの関係については、先行研究で見解が分かれています。
- 否定的影響なし:Kirienko KV, et al. Reprod Biomed Online. 2019;39:745–9.
ZPの機械的除去が臨床アウトカムに影響しないと報告しており、本研究と一致します。 - 改善効果あり:Baatarsuren M, et al. Lasers Med Sci. 2024;39:51.
融解後のレーザーZP完全除去により出生率が向上したと報告しています。
PSM前の段階ではZP free群で臨床妊娠率・出生率の低下が観察されましたが、これはZP消失そのものの影響というよりも、ZP free群でday 6胚盤胞の割合が著しく高いこと(78.71% vs. 21.02%)や採卵回数が多いことといった背景因子の不均衡を反映したものであり、PSMによる調整後には差が消失しました。
PGT実施症例はArtificial Shrinkageを行なっているため、拡張胚盤胞vitrificationの影響はほぼないと思っています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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