
はじめに
子宮内膜症は生殖年齢女性の約10%に認められる慢性炎症性疾患であり、不妊との関連が知られています。先行研究では子宮内膜症女性の不妊リスクは約2倍と報告されていますが、その病態は炎症、免疫学的異常、骨盤内解剖の変化、疼痛症状などが複雑に関与しています。これまでの妊孕性に関する研究の多くはIVF/ICSI治療例や深部子宮内膜症の手術例を対象としており、病型別の集団ベースデータは限られていました。今回ご紹介する研究は、フィンランドの全国登録データを用いて、手術的に確定診断された子宮内膜症の病型別に初産率を検討した大規模コホート研究です。
ポイント
手術的に確定診断された子宮内膜症女性の半数以上が初産に至り、腹膜病変型が最も予後良好で、卵巣型が最も予後不良でした。
引用文献
Anni Tuominen, et al. Fertil Steril. 2026 Apr;125(4):660-670. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.10.025.
論文内容
手術的に確定診断された子宮内膜症未経産女性において、病型別の初産率を検討することを目的としたフィンランドの全国登録を用いたレトロスペクティブ集団ベースコホート研究です。1998年から2012年に初回手術で子宮内膜症と診断された15~49歳、1940~1979年生まれの未経産女性9,590人を対象としました。病型別に、腹膜病変型のみ(n=3,146、32.8%)、卵巣型(n=3,020、31.5%)、深部子宮内膜症(n=659、6.9%)、混合・稀少・部位不明型を含む複合/その他型(n=2,765、28.8%)の4つのサブコホートに分けました。さらに、index day以前に不妊症と診断されていた女性(妊娠希望が推定される群、n=4,374)でサブ解析を行いました。追跡期間はindex dayから初産、不妊手術/両側卵巣摘出/子宮全摘、移住、死亡、50歳到達、または2019年12月31日のいずれか早い時点までとし、主要評価項目は100人年当たりの初産発生率(IR)としました。
結果
子宮内膜症女性全体のうち5,184人(54.1%)が手術的診断後に初産に至りました。手術時年齢の中央値は卵巣型が最も高く32.5歳(IQR 28.5~37.2)でした。全女性における100人年当たりの初産IRは7.67(95%CI 7.46~7.88)でした。サブコホート間で比較すると、腹膜病変型のIRが9.44(95%CI 9.03~9.87)と最も高く、卵巣型が6.21(95%CI 5.89~6.55)と最も低く、深部子宮内膜症は8.14(95%CI 7.34~8.94)でした。腹膜病変型を基準としたIRRは、卵巣型0.66(95%CI 0.61~0.70)、深部0.86(95%CI 0.77~0.96)、複合/その他型0.78(95%CI 0.72~0.83)と、いずれも有意に低値でした。手術前にすでに不妊症と診断されていた4,374人(45.6%)のうち、2,882人(65.9%)が初産に至り、この群のIRは11.5(95%CI 11.1~12.0)と全体より高値でした。初産までの期間中央値は全体で2.3年(IQR 1.4~4.3)、不妊診断既往群で1.9年(IQR 1.2~3.1)でした。20年時点で打ち切ったrestricted mean survival time(RMST)解析では、腹膜病変型と比較して卵巣型および複合/その他型では未出産期間が有意に長く、卵巣型のRMST差は−2.64(95%CI −3.08~−2.21)、複合/その他型は−1.61(95%CI −2.05~−1.17)でした(いずれもP<.001)。年齢、教育歴、居住地、index day時の暦年、index day前のIVF歴で調整しても結論は変わりませんでしたが、調整後は卵巣型と複合/その他型の差は消失しました。手術時年齢が35歳未満では病型を問わず初産IRが有意に高値であり、年齢の影響が強調されました。
私見
本研究の解釈で注意を要するのは、「初産に至った女性のうち、どれだけがART妊娠でどれだけが自然妊娠であったか」が登録データから直接同定できない点です。不妊既往群4,374人のうち、ART経験者2,486人(56.8%)の74.1%にあたる1,843人が手術日(つまり診断日)以後にARTを受けており、これは「内膜症の手術確定診断後にARTへステップアップした女性が大半を占める」ことを意味します。したがって不妊既往群の初産率65.9%という数字には、自然妊娠例と内膜症手術後にARTへ進んで妊娠に至った例が混在しており、その内訳は本論文からはわかりません。同様に、手術日(つまり診断日)以前にARTを受けた643人についても、その後の初産がART継続によるものか、手術を契機とした自然妊娠によるものかは特定できません。ART未実施の1,888人(不妊既往群の43.2%)のみが、体外受精を経ずに妊娠・出産した可能性のある集団ですが、Tuominenらはこの群と IVF経験者群を分けた初産率を提示していないため、それぞれの群がどの程度妊娠に至ったかは数値として示されていません。
フィンランドでは40歳未満で公的に3周期のART費用が償還される医療体制があり、内膜症の確定診断が迅速なART導入のトリガーになっている可能性が著者ら自身からも指摘されているため、本研究で示された良好な初産率は「内膜症手術自体の妊孕性改善効果」と「診断後の迅速なART介入の効果」が分離不能な形で混在した複合的な成績として読むのが妥当です。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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