
はじめに
不育症は、生化学的妊娠や部位不明妊娠を含む2回までの連続または非連続の妊娠喪失と定義され、妊娠を希望するカップルの5%前後に生じるとされています。その真の原因は相当数の症例で不明のままです。こうしたなか、着床前遺伝学的検査(PGT-A)は不育症患者に対する新たな治療選択肢として登場してきましたが、複数回の正倍数性胚移植を行った後の累積成績についてのデータは明らかではありません。今回、不育症患者において最大3回の凍結融解単一正倍数性胚盤胞移植を行った際の累積出生率を評価した中国2施設のレトロスペクティブコホート研究をご紹介いたします。
ポイント
正倍数性胚盤胞が得られた不育症患者では、最大3回の凍結融解胚移植で累積出生率96.9%と非常に良好な成績が得られそうです。
引用文献
Jian Xu, et al. Fertil Steril. 2026 May;125(5):926-928. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.11.021.
論文内容
不育症患者において、最大3回の凍結融解単一正倍数性胚盤胞移植後の累積出生率を評価することを目的とした研究です。
2018年9月から2024年12月までにPGT-Aを施行し、凍結融解単一正倍数性胚盤胞移植を受けた不育症患者を対象としたレトロスペクティブコホート研究として、中国の学術的生殖医療センター2施設で実施されました。不育症は生化学的妊娠を含む2回までの連続または非連続の妊娠喪失と定義されました。未治療の子宮形態異常、子宮鏡で確認された中等度〜高度の子宮内腔癒着、プロゲステロン投与開始前の子宮内膜厚7mm未満、モザイク胚の移植、単一遺伝子疾患に対するPGT、構造的染色体転座の症例は除外されました。一方、治療済みの内分泌異常(甲状腺機能異常、高プロラクチン血症)または免疫学的異常(抗リン脂質抗体症候群)を有する患者は組み入れられました。PGT-Aは栄養外胚葉生検と次世代シークエンサーにより実施され、正倍数性胚は異数性30%未満と定義されました。子宮内膜調整はホルモン調整周期または自然周期が用いられました。カテゴリー変数は頻度と割合、連続変数は平均±標準偏差で示され、3回のFE-SETを完遂した患者と脱落者の背景比較には対応のないt検定、交絡因子の調整には多変量二項ロジスティック回帰が用いられました。
結果
PGT-A後に凍結融解単一正倍数性胚盤胞移植を受けた不育症患者282人がスクリーニングされ、最終的に269人が解析対象となりました。269人の背景は、平均年齢34.9±3.7歳、平均BMI 22.4±2.4 kg/m²、平均AMH値4.3±2.8 ng/mL、既往妊娠喪失回数の平均2.9±0.9回でした。不妊症は134人(全体の49.8%、134/269)に診断され、平均不妊期間は1.4±1.9年でした。
195人(72.5%、195/269)が最大3回のFE-SETを完遂し、全体の脱落率は27.5%でした。完遂群(n=195)と脱落群(n=74)の背景比較では、年齢(34.8±3.6 vs. 35.4±3.6歳、P=.43)、BMI(22.1±2.4 vs. 22.8±2.5 kg/m²、P=.20)、既往妊娠喪失回数(2.6±0.7 vs. 2.8±0.8、P=.22)は同等でした。しかしAMH値は脱落群で有意に低く(3.2±1.6 vs. 4.8±3.1 ng/mL、P<.01)、脱落群の卵巣機能が相対的に不良であることが示されました。
臨床妊娠率は1回目のFE-SETで64.3%(173/269、95%CI、58.6–70.1)、2回目で60.8%(45/74、95%CI、49.4–72.2)、3回目で62.5%(10/16、95%CI、35.9–89.1)でした。移植あたりの出生率は1回目53.2%(143/269、95%CI、47.2–59.2)、2回目48.6%(36/74、95%CI、37.0–60.3)、3回目62.5%(10/16、95%CI、35.9–89.1)でした。
最大3回の凍結融解単一正倍数性胚盤胞移植を受けた患者における全体の出生率は96.9%(189/195、95%CI、94.5–99.4)でした。多変量二項回帰では、年齢、BMI、AMH、子宮内膜調整法、子宮内膜厚、胚質のいずれも累積出生率に有意な影響を及ぼしませんでした。
私見
不育症に対するPGT-Aの位置づけは、依然として最も議論の分かれる領域の一つです。
肯定的な立場
- Bhatt SJ, et al. Hum Reprod. 2021.
- Mumusoglu S, et al. Fertil Steril. 2025.
原因不明不育症におけるPGT-Aのシステマティックレビュー・メタアナリシ
慎重な立場・背景となる文献
- ESHRE Guideline Group on RPL. Hum Reprod Open. 2023.
ESHREガイドラインで、不育症に対するPGT-Aはルーチンには推奨されていな い。 - Murugappan G, et al. Hum Reprod. 2016.
per protocol解析ではPGTが有効となったが、intent-to-treat解析では差なし。
「正倍数性胚が確保できた2回以上の生化学流産を含む不育症患者」という限定された集団において、3回まで移植を継続すれば約97%が出産に至るという、患者カウンセリングに直結する数字を提示した点にあります。この数字、P PirteaのRIF原因のほとんどは胚異常と通じる内容だと思っています。
知れば知るほど、胚因子は不育症でも反復着床不全でも思っている以上に重要なファクターだと思っています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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