不育症

2026.08.21

既往死産女性におけるその後の妊娠での死産リスク(Obstet Gynecol. 2022)

はじめに

これまでのシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、既往死産が次回妊娠での死産リスクを高めることが示唆されてきました。しかし対象の多くは1回目・2回目の妊娠に限られ、3回以上の妊娠を扱った研究は症例数が少なく検出力不足のため結果が一致していませんでした。また従来研究の多くはロジスティック回帰により「過去に死産があったかどうか」のオッズを後方視的に算出する手法で、死産を経験した時点で次回以降の死産リスクを前向きに予測することができませんでした。
今回、フィンランド・マルタ・スコットランドの周産期データを用いた大規模コホート研究をご紹介いたします。なお本研究でいう死産は、フィンランド・マルタでは妊娠22週以上または出生体重500g以上、スコットランドでは妊娠24週以上の単胎を対象としており、これより早期の流産は含みません。

ポイント

初回妊娠が死産であった女性は、妊娠回数や順序にかかわらず次回以降の死産リスクが2倍以上に上昇しますが、相対リスクが高い一方で絶対リスクは低いことが示されました。

引用文献

Lamont K, et al. Obstet Gynecol. 2022 Jan;139(1):31-40. doi: 10.1097/AOG.0000000000004626.

論文内容

初回妊娠に死産歴のある女性と、ない女性との間で、次回以降の妊娠における死産の前向きリスクを比較することを目的とした研究です。
フィンランド・マルタ・スコットランドの周産期データベースの個人参加者データを用いた多国間レジストリベースのコホート研究です。各国で単胎分娩を2回以上経験した女性を対象とし、初回妊娠が死産であった女性を曝露群、出生に至った女性を非曝露群としました。次回以降の妊娠における死産リスクをCox比例ハザードモデルで評価し、初回妊娠の転帰が次回死産までの期間や妊娠回数に影響するかを time-to-event 解析で検討しました。

結果

統合データセットには1,064,564人の女性が含まれ、初回妊娠で死産を経験したのは6,288人(0.59%)、出生に至ったのは1,058,276人でした。出生群と比較して、初回死産群では次回以降の妊娠で死産を経験しやすく(aHR 2.25, 95% CI 1.86–2.72)、3回以上妊娠した女性では両群間の死産リスク差が妊娠回数の増加とともに拡大しました。初回妊娠時の母体年齢25歳未満または40歳以上、喫煙、低い社会経済的地位、パートナー不在、既存糖尿病、子癇前症、常位胎盤早期剥離、または胎児発育不全児の分娩が、それぞれ独立して次回死産と関連していました。出生群と比較して死産群は1年以内に次の妊娠をしやすい傾向もありました。次回妊娠における死産の絶対リスクは、初回死産群で2.5%、初回出生群で0.5%でした。

私見

本研究の最大の特徴は、1回目の妊娠(initial pregnancy)を起点としたCox比例ハザードによる前向き設計を採用した点にあります。重要なのは、曝露を「次の妊娠の直前の転帰」ではなく「1回目の妊娠が死産だったか否か」で定義していることです。すなわち「最初の妊娠が死産だった女性が、その後の2回目・3回目…のいずれかの妊娠で再び死産を経験するか」を追跡しています。 
修正可能因子として、喫煙(Flenady V, et al. Lancet. 2011、高所得国を対象としたシステマティックレビュー・メタアナリシス)、パートナー不在(Stillbirth Collaborative Research Network. JAMA. 2011、米国の症例対照研究)、低い社会経済的地位(Stephansson O, et al. Int J Epidemiol. 2001、スウェーデンの集団研究)が独立危険因子であった点は先行研究と一致します。 
常位胎盤早期剥離・胎児発育不全・糖尿病(Smith GC, et al. Am J Epidemiol. 2007、スコットランドの後方視的コホート)、初回早産・SGA児分娩・子癇前症(Surkan PJ, et al. N Engl J Med. 2004、スウェーデンの集団研究)が次回死産と関連するという先行知見も、「以降のいずれかの死産」について確認されました。 

相対リスクは2倍以上でも絶対リスクは2.5%にとどまる点を患者説明で併せて伝えることが、過度な不安を避けるうえで大事だと思っています。 
 
初回死産時の母体年齢(基準=25–29歳) 

  • 20歳未満:aHR 1.63(1.49–1.77) 
  • 20–24歳:aHR 1.25(1.16–1.33) 
  • 30–34歳:aHR 1.06(0.97–1.15、有意差なし) 
  • 35–39歳:aHR 1.08(0.93–1.27、有意差なし) 
  • 40歳以上:aHR 1.68(1.09–2.58) 

生活・社会的因子 

  • パートナー不在:aHR 1.20(1.11–1.29) 
  • 喫煙(妊娠中):aHR 1.12(1.03–1.21) 
  • 禁煙・元喫煙:aHR 0.98(0.83–1.14、有意差なし) 
  • 低い社会経済的地位:aHR 1.14(1.06–1.22) 

既存疾患・産科合併症 

  • 既存糖尿病:aHR 2.42(1.88–3.11) 
  • 既存高血圧:aHR 1.04(0.83–1.31、有意差なし) 
  • 子癇前症:aHR 1.27(1.12–1.44) 
  • 常位胎盤早期剥離:aHR 1.41(1.06–1.86) 
  • 前置胎盤:aHR 1.13(0.73–1.75、有意差なし) 
  • 分娩前出血:aHR 0.98(0.81–1.18、有意差なし) 
  • 胎児発育不全(FGR):aHR 1.58(1.39–1.81) 

初回分娩の妊娠週数(基準=37–42週) 

  • 22–28週:aHR 2.91(2.37–3.58) 
  • 29–32週:aHR 2.63(2.22–3.12) 
  • 33–36週:aHR 1.48(1.33–1.65) 
  • 43週以上:aHR 0.89(0.56–1.42、有意差なし) 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 流産、死産

# 胎盤異常

# 不育症(RPL)

# 周産期合併症

# 疫学研究・データベース

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

不育症女性における子宮手術既往と次回妊娠予後(Fertil Steril. 2025)

2026.05.26

不育症における過剰妊孕性と低妊孕性の比較分析(J Reprod Immunol. 2023)

2025.06.18

不育症管理の治療指針(第3版:令和7年5月改訂):検査について

2025.06.12

反復流産女性における凍結融解胚移植後の早産/低体重出生予後(Fertil Steril. 2024)

2025.03.14

原因不明不育症患者に対する着床前遺伝子検査(PGT-A)の有用性(Fertil Steril. 2025)

2025.02.21

不育症の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

Th1/Th2比測定は不妊治療に意味があるの?(Am J Reprod Immunol. 2021)

2021.06.25

生化学的流産(化学流産)について

2020.09.15

COVID-19(新型コロナワクチン)後の流産リスク(Hum Reprod. 2023)

2023.03.13

妊娠初期に出血した女性の流産予防(Lancet. 2021)

2021.10.11

初期流産には手術をおこなっても術後1年以内の妊娠率は低下しない(Fertil Steril. 2021)

2021.12.25

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

腟潤滑ゼリーは妊娠率に影響する?

2022.01.24

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

2026.01.23

妊娠できるカップルはほぼ6ヶ月以内に妊娠する。(論文紹介)

2021.11.11