体外受精

2020.10.14

凍結融解胚移植の手技による妊娠予後因子(Reprod Med Biol. 2020)

はじめに

胚移植は、卵巣刺激―採卵を行った後に受精胚を女性の体内に戻す手技ですが、妊娠できる可能性をもつ、不妊治療においてはとてもキーとなる手技だと思っています。移植カテーテルに受精胚をローディングして、エコーガイド下で子宮内に戻す場所を決めて戻していきます。生殖医療に関わり体外受精を始めてから、私自身が一番試行錯誤しておりますし、指導も難しいところだと思っています。 
これについて以前より分かりやすく発表し続けてくれているのが兵庫県の英ウィメンズクリニックです。論文をご紹介させていただきます。 

ポイント

凍結融解胚盤胞移植の妊娠成績は、子宮内膜厚と気泡の位置が独立した予測因子となります。子宮内膜厚は8-15mmで直線的に妊娠率が上昇し、気泡の位置は子宮底部から6-10mmが最適です。医師の自己評価スコアも単変量解析では有意でしたが、多変量解析では有意差は認められませんでした。 

引用文献

Hayashi N et al. Reprod Med Biol. 2020 DOI: 10.1002/rmb2.12322. 

論文内容

2017年8月から2018年1月までの神戸のクリニックで実施された単一凍結融解胚盤胞(Gardner grade ≥3BB)移植938例の胚移植周期を対象としました。臨床妊娠の予測因子として、子宮内膜厚、移植された際の気泡の位置、医師による自己評価スコア、ET時の子宮の方向を含むいくつかのパラメータの重要性を、単変量解析および多変量解析を用いて評価しています。 

結果

ET周期のうち、462名(49.3%)が臨床妊娠に至りました。子宮内膜厚は臨床妊娠と直線的な正の相関を示しました。移植された気泡の位置と臨床妊娠率の間には曲線的な関係が見られました。臨床妊娠率は医師の移植に対する自己評価スコアが良好な症例ほど良好な結果になりましたが、子宮の向きは関係しませんでした。予測因子として、単変量解析では子宮内膜厚、医師による自己評価スコア、気泡の位置が臨床妊娠の有意な予測因子として同定されましたが、多変量解析では子宮内膜厚と気泡の位置は独立して臨床妊娠と関連している傾向にありました。 
子宮内膜厚ですが、以前からの報告のように今回の論文でも8-15mmでは直線的に妊娠率が上昇しています。ただし、Sundstromらは、子宮内膜厚が4mm未満であったにもかかわらず体外受精で妊娠に成功したと報告していますし、本研究でも6mm未満の子宮内膜厚で2例(臨床妊娠率25%: 2/8)の妊娠が成立しています。 
移植された気泡の位置は移植胚の位置の指標とされることが多く、体位を変えても気泡の位置が94.1%は変わらず、妊娠した胚の81%が気泡の確認できた場所に着床すると報告されています。気泡の位置と関連するのですが、移植カテーテルを置く場所も大事です。Coroleuらは移植カテーテルと子宮底部から1.5〜2.0cmの位置にカテーテルを配置した場合の方が、1.0cm未満に配置するより妊娠率が高いとしています。今回の論文でも気泡の位置が子宮底部から6-10mmまでは妊娠率は安定しており、10mm以降は低下しています。 

私見

胚移植は本当に難しいです。私自身が、一番納得いく移植ができるまで苦しんだ手技なので、当院では移植を胚の移植カテーテルへのローディングするところから子宮に戻すところまで全て、患者様にも画面を一緒に見ていただきながら行っています。 
今回の論文では「医師の移植に対する自己評価スコアが高いほど妊娠率が高くなった」とありましたが、多変量解析の結果では有意差がなくなっていました。やはり、何らかの因子が医師の移植に対する自己評価を下げるきっかけになっていて、他の交絡因子にかき消されたのかなと思っています。 
今回の検討では筋腫等で子宮が変形している患者は除かれています。実際に臨床を行っていると、子宮腔内が変形している方はたくさんいますし、尿の溜まり方などによる移植直前の子宮のポジションなどでも状況が変わります。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 総説、RCT、メタアナリシス

# 胚移植(ET)

# 子宮内膜厚、形態

# 凍結融解胚移植

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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