はじめに
排卵誘発で用いられるゴナドトロピン療法は大きくわけて、①卵胞の発育を促すFSH製剤とhMG製剤、②卵胞が発育した段階で排卵を促すLH作用のあるhCG製剤にわかれます。一般不妊でも体外受精でも用いることがあるhMG製剤ですが、どんな薬剤か患者様には分かりづらいですよね。知らないことによる不妊治療への恐怖心や不信を生み出す可能性があるため、hMG製剤について取り上げます。
ポイント
ゴナドトロピン製剤には尿由来hMG/FSH製剤と遺伝子組み換え型rFSH製剤があり、費用や在宅自己注射の可否が異なります。効果は同等ですが、各製剤には利点と課題があり、患者様の状況に応じた選択が重要です。
まとめ
ゴナドトロピン製剤は、閉経婦人尿由来のhMG製剤/FSH製剤と遺伝子組み換え型ヒトFSH製剤(recombinant FSH: rFSH)があります。LH含量がFSHの0.0053以下のものをFSH製剤、それ以上のものをhMG製剤といいます。現在日本国内において薬事法で認められて使える薬剤は以下の通りです。
| 製剤名 | FSH:LH比 |
|---|---|
| hMG製剤 | |
| HMG筋注用®75/150単位「あすか」 | 1:0.33 |
| HMG筋注用®「F」75/150単位 | 1:0.33 |
| FSH製剤 | |
| uFSH注用®75/150単位「あすか」 | 1:0.0053 |
| フォリルモンP注®75/150 | 1:0.0053 |
| rFSH製剤 | |
| ゴナールエフ皮下注ペン®75/150/450/900 | 1:0 |
| フォリスチム注®50/75/150/300/600/900 | 1:0 |
| レコベル皮下注®12/36/72μg | 1:0 |
金額
hMG製剤/FSH製剤の方が安価です。
在宅自己注射
hMG製剤/FSH製剤、rFSH製剤ともに認められています。ただしプレフィルドタイプかどうかで打ちやすさは異なります。
効果
生殖医療ガイドライン2025(CQ21)では、FSHとhMGの間に明らかな有効性、安全性の違いは認められないとされています。
その他の問題点
尿製剤に関して、以下の課題があります。
原材料の供給不安
将来、原材料の尿が安定供給されず、薬剤入荷困難になる可能性があります。
不純物の残存
精製後に残存する不純物が考えられる点があります。これは下記に示すプリオン病もそうですが、FSH以外の夾雑蛋白が含まれているとアレルギー反応リスクが上昇したり、FSHの活性のばらつきが生じたりしてしまいます。
未知の病原体混入の可能性
一番メジャーなのはプリオンです。現在のところ、世界中でこれだけ尿製剤のhMG製剤/FSH製剤を使用していて、医原性のヒトプリオン病は報告されていません。しかし、医原性クロイツフェルト-ヤコブ病は、死体からの角膜もしくは硬膜の移植、定位脳手術での電極の使用、またはヒト下垂体から抽出された成長ホルモン製剤の使用を介した感染例が報告されているため、かつて話題になりました。製薬会社も企業努力を行っており、狂牛病発症地域を避けた閉経婦人尿を用いたり、尿を集める際の規制を強めたりしています。その他の製造工程としても複数の精製過程(カラム吸着・限外濾過による濃縮や無機塩との共沈など)を行っていますので、現在のところ問題ないという通達を世界でも日本でも出しています。
rFSH製剤の薬価がもう少し下がったり、体外受精が保険適用になれば患者様に提供しやすくなるのに、と日々考えています。ただし、日本では遺伝子組み換え型ヒトLH製剤(recombinant LH: rLH)が販売されていないため、hMG製剤を完全に卵巣刺激からなくすことは生殖医療成績を考えると難しいと思っています。
ちなみにhMG製剤のLH成分は、よく教科書に「LH活性をもつ」と書かれています。これは何故でしょうか。LH活性の一部をhCGで賄っているからです。これについては別途記載させていただきます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。