一般不妊

2021.03.10

調整後の総運動精子数は人工授精成績に影響しますか。(Fertil Steril. 2021)

はじめに

「調整後の総運動精子数は人工授精に成績に影響を与えないのですか?」と質問を受けることがあります。調整後の総運動精子数の人工授精妊娠への寄与は過去の発表でも意見がわかれており、今回レトロスペクティブではありますが、大きい周期数での報告ができてきたのでご紹介させていただきます。 

ポイント

調整後総運動精子数は900万以上が好ましいですが、それ未満でも妊娠の可能性はあり、人工授精を中止する明確な閾値はみつかりませんでした。調整後総運動精子数が低値であることは治療中断のカットオフとしては使えないが今後の方針を相談する上では役に立つとしています。

引用文献

Akhil Muthigi, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.01.014 

論文内容

調整後総運動精子数と人工授精の妊娠率を検討した2002年から2018年までの間に単一施設で実施された37,553名92,471周期の心拍陽性の妊娠率を評価項目とする後方視的研究です。卵巣刺激法はクロミッド、レトロゾール、HMG製剤で行われました。GEE分析を用いて、患者による複数サイクルを考慮し、女性年齢、BMI、卵巣刺激方法を調整しました。 

結果

調整後総運動精子数と臨床妊娠の関係を評価したところ、妊娠率は総運動精子数が900万以上の時に高く、低下するにつれて徐々に低下しました。総運動精子数が900万以上の周期(46,557周期)を対象に多変量解析を行ったところ、900万以上は数が増えても妊娠率に寄与しないことがわかりました。反対に総運動精子数が900万未満の周期のサイクル(16,201周期)の多変量解析では、総運動精子数は妊娠の予測に高い値を示しました(Wald χ2=39.85)。 
人工授精妊娠率において調整後総運動精子数は900万以上が好ましく、それ未満の場合は妊娠率が徐々に低下しました。総運動精子数が25万未満で人工授精妊娠することはほとんどありませんでした。調整後総運動精子数の低下による人工授精後の妊娠低下は連続的に緩やかに低下するので人工授精を中止するような閾値はみつかりませんでした。 
調整後総運動精子数と人工授精の妊娠率の相関関係は、文献では大きく変動しています。294組526周期の人工授精を対象としたMadboulyらのレトロスペクティブ研究では、調整後総運動精子数が500万以上で妊娠率に関連しており、調整後総運動精子数は人工授精成績に重要な因子だとしています。 
141組156周期のOkらの研究では、調整後総運動精子数と妊娠率との間に直線的な関係があることを報告しており、その結果から、調整後総運動精子数100万以上が人工授精に寄与する重要な因子としています。しかしながらvan Weertらによる16件のメタアナリシスでは、調整後総運動性精子が80-500万以下では人工授精で良好な結果が得られないとしており、報告によるばらつきが大きく見られます。 
反対にLemmensらは4,251回の人工授精周期の多変量解析にて調整後総運動精子数と人工授精妊娠率は影響をあたえないという報告もあります。 
今回の研究でも調整後総運動精子数が25万未満でも4.18%妊娠(900万以上では16.7%)しており、調整後総運動精子数が低値であることは治療中断のカットオフとしては使えないが今後の方針を相談する上では役に立つとしています。 

私見

この報告は、人工授精の妊娠率が異様に高いのですが、女性平均年齢は34.5±4.5歳と若年であることが一つの理由であり、大きな理由は全例卵巣刺激をおこなっている点だと考えます。何個排卵したか、多胎妊娠率がどの程度あったかの記載はありません。 
ただ、この研究はあくまで調整後総運動精子数が人工授精妊娠率に寄与するかをみる報告なので、私としてはとても参考になった論文でした。この論文を読んでも、私たちは調整後運動精子数での人工授精の中断はしないという方向性は変えないつもりです。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 人工授精

# 精液所見

# 費用対効果

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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