体外受精

2021.04.21

PRP治療のナラティブレビュー(J Assist Reprod Genet. 2021:その1)

はじめに

PRPとは日本語では多血小板血漿療法、英語のPlatelet-Rich-Plasma therapyの略語である。PRPは患者様ご自身の血液から血小板という細胞を高濃度に含んだ液体を生成し、注射により体内の損傷部位に注入するという治療である。 
整形外科、心臓外科、形成外科、皮膚科、歯科、糖尿病性創傷治癒など、さまざまな分野で新しい治療法として注目され、最近では不妊治療の分野でも注目され始めている。 
子宮内PRP注入治療は当院でも日本で認可がおりた当初から実施しており、一定数の女性が妊娠にいたっている。PRP治療は国内で1移植につき20万程度(胚移植代金抜き)かかるため、内膜が薄い名は内膜が厚くなることを期待して治療を受けるわけだが、患者様が望むほど厚くなっていないからなのか、気付いたら私も積極的に勧める機会が以前より減ったなと感じていた。ただ、同じような治療も含めて国内では数多くの施設が導入しており、よい論文がないかなとずっと探しておりましたが、今年になってナラティブレビュー(今までの振り返りと提言)ができてきたので、ご紹介したいと思う。

ポイント

PRPは子宮内膜が薄い女性、卵巣予備能が低い女性、着床不全を繰り返す女性に対する治療選択肢として有用である可能性があるが、大規模なランダム化比較試験が必要である。子宮内膜が薄い場合では内膜厚の増加と妊娠率上昇が報告されているが、標準化された治療プロトコルの確立が今後の課題である。 

引用文献

Sharara FI, et al. J Assist Reprod Genet. 2021. DOI: 10.1007/s10815-021-02146-9. 

論文内容

目的は、生殖医療における自己PRP療法の効果に関する既存の文献をレビューし、現在の研究を総括すると共に、更なる研究の必要性を評価することとしている。PubMed、MEDLINE、CINAHL Plusを用いて文献検索を行い、生殖医療におけるPRP注入療法の使用に焦点を当てた研究を特定した。論文は、①子宮内膜が薄い場合のPRP、②予備能が低い場合のPRP、③着床不全を繰り返す場合のPRPの3つに分けて検索した。 

結果

  1. 子宮内膜が薄い女性では、自己PRP療法後に子宮内膜の厚さが増加し、化学的妊娠率と臨床的妊娠率が上昇したという文献がある。
  2. 卵巣予備能が低い女性では、卵巣内PRP注入療法により、AMH濃度が上昇し、FSHが低下し、臨床的妊娠および出生率が上昇する傾向が認められた。
  3. 着床不全を繰り返す女性にも臨床的および出生率が上昇する傾向がみられた。

ただし、PRP製剤の標準化がなされていないことや、大規模なランダム化比較試験が行われていないことは、今後の研究で取り組む必要がある。決定的な大規模RCTが得られるまでは、PRPの使用は実験的なものと考えるべきとしている。 

子宮内膜が薄い場合のPRP 

Chang Yら. Int J Clin Exp Med. 2015. 
内膜が薄い女性に初めてPRPを使用して、子宮内膜の厚さが増加し、妊娠結果が改善することを報告した。彼らは、標準的なホルモン補充療法では胚移植が成功せず、子宮内膜の反応も悪かった5名の女性を分析した。全員が子宮内膜の準備のためにエストラジオールを6mg/日で投与され、子宮内膜の反応が悪い場合は12mg/日に増量された。すべての参加者でエストラジオールの投与量が増加したにも関わらず、子宮内膜は7mm未満のままであった。これらの女性には、子宮鏡による子宮内癒着がある場合は剥離、そして子宮内PRP注入療法を実施した。PRP注入の72時間(3日)後に子宮内膜を再測定し、内膜が7mm未満であれば、再度PRP注入を行った。2名の女性が1回、4名が2回の注入を受けた。 
Changらは、5名の女性全てにおいて、PRP注入後48~72時間後に子宮内膜の厚さが増加し、プロゲステロン投与日までに7mmに達したことを報告した。全員が胚移植を受け、妊娠成立し、染色体異常があった一例以外は全員妊娠継続となった。 

Chang Yら. Medicine (Baltimore). 2019. 
Changらは、最初の報告のフォローアップ研究として、より多くの集団(64名の患者)を分析する前向きコホート研究を行った。参加者は全員、40歳以下でFSH値が10未満、良質な凍結胚盤胞を2個持っていた。月経周期の2日目または3日目にホルモン調整周期の内膜準備のためにエストラジオールを6mg/日、子宮内膜が7mm未満の場合は最大12mg/日使用し、7mm未満のままの場合は子宮内PRP注入療法を選択し、辞退した場合は対照群とした。 
対照群と比較したPRP群の移植キャンセル率は、それぞれ19.05%と41.18%であった(p=0.022)。また、PRP群では対照群に比べて子宮内膜の厚さが有意に増加し(p=0.013)、臨床的妊娠率(44.12%対20%、p=0.036)と着床率(27.94%対11.67%、p=0.018)の増加も認められた。 

Zadehmodarres Sら. JBRA Assit Reprod. 2017. 
子宮内膜が薄い10名の参加者を対象とした別の小規模な研究では、4名がアッシャーマン症候群と子宮筋腫のために子宮鏡手術既往あり、子宮内自己PRP注入療法を行った結果、注入後48時間(2日)で子宮内膜の厚さが増加したが、厚さが7mm以上になるには2回目の注入が必要であった。 
その後、胚移植が行われ、参加者10名のうち5名が妊娠し、そのうち4名は正常に妊娠が進行した。 

Tandulwadkar Sら. J Hum Reprod Sci. 2017. 
エストラジオール療法にもかかわらず子宮内膜が薄い、子宮内膜の反応が悪いために2回以上ホルモン調整周期を中止した、またはパワードップラーで評価して子宮内膜の血管性が悪い、20歳から40歳の女性68名を分析した。15~16日間のE2補充にもかかわらず子宮内膜の反応が悪く、子宮内膜血管シグナルが悪い名には、子宮内PRP注入療法を実施した。PRPを注入した72時間(3日)後に、子宮内膜と血管の状態を再評価した。子宮内膜血管シグナルが良好で子宮内膜の厚さが7mm以上の名には胚移植を行い、基準を満たさない名は再度子宮内PRP注入療法を繰り返した。結果は、子宮内膜の厚さが有意に増加し(p<0.00001)、化学的妊娠率は60.93%(39名)、臨床的妊娠率は45.31%であった。HCG陽性であった39名の女性のうち、8名が様々な理由でterminationとなっている。 

Eftekhar Mら. Taiwan J Obstet Gynecol. 2018. 
子宮内膜が薄い対象者66名を対象に、初の無作為化比較試験(PRP群とコントロール群)を実施した。PRP群では、コントロール群と比較して、初回子宮内自己PRP注入後の子宮内膜の厚さに統計的な差が認められ(p=0.001)、着床率も高くなった(p=0.002)。また、PRP投与群では、移植中止率が低く、妊娠率が高いことがわかったが、統計的に有意ではなかった。 

Coksuer Hら. Gynecol Endocrinol. 2019. 
反復着床不全の女性70名を評価するレトロスペクティブ研究を行った。子宮内膜が最適でない(7mm未満)女性はPRP併用下に凍結融解胚移植を実施し(34名)、子宮内膜が正常で凍結融解胚移植のみを実施した女性は対照群(36名)とした。ホルモン調整周期のプロトコールは周期1日目にエストラジオール6mgを1日1回使用し、子宮内膜が7mm未満の場合は1日12mgに増量した。子宮内膜の厚さが8mm以上になった時点で、プロゲステロン腟剤400mgを1日2回投与することを開始し、妊娠した場合は妊娠12週まで継続した。子宮内膜が20日間の補充にも厚くならなかった女性は、凍結融解胚移植の48時間前に子宮内自己PRP注入を実施した。PRP群の子宮内膜の厚さは、PRP治療前の6.25mm(範囲4.3~6.9mm)に比べて、PRP治療後は10mm(範囲8~14mm)と有意に高くなった(p<0.001)。 
生化学的妊娠率は61.8%、臨床的妊娠率は50%、出生率は41.2%であり、後者2つは統計的に有意な結果となった(それぞれp=0.042、0.045)。 

Nazari Lら. Hum Fertil. 2018. 
PRP群(30名)または偽カテーテル群(30名)に無作為に割り付けられた60名の女性を分析した。参加者全員が、ホルモン調整周期の内膜準備のために月経周期の2日目または3日目にエストラジオール6mg/日を投与され、子宮内膜の厚さが不十分な場合10日目に8mg/日に増量された。11-12日目には、子宮内膜の薄さが持続するため、子宮内PRP注入または偽カテーテル挿入を実施した。子宮内膜が7mm以上になると、400mgのプロゲステロンを1日2回経腟投与し、胚移植を実施した。子宮内膜の厚さは、PRP群では7.21±0.18mm、偽カテーテル群では5.76±0.97mmとなった(p<0.001)。 
化学的妊娠はPRP群が、偽カテーテル群より高く(40%対6.7%、p=0.031)、臨床的妊娠も同様の結果となった(33.3%対3.3%、p=0.048)。 

Frantz Nら. JBRA Assist Reprod. 2020. 
標準的なホルモン補充療法に難治性の子宮内膜で、良好胚盤胞を凍結できている女性21名を対象にレトロスペクティブ解析を実施した。ホルモン調整周期の内膜準備のために月経周期の最終日に6mgのエストラジオールを経口投与、7日目または10日目に子宮内膜の厚さがまだ7mm未満であれば、エストラジオールを1日8mgに増量した。エストラジオールを14~17日投与しても子宮内膜が7mm以上にならない場合は、2日目ごとに子宮内PRP注入療法を行い、合計3回注入した。3回目のPRP注入の後、プロゲステロン腟剤800mg/日投与を開始し、凍結融解胚移植を実施した。 
16例の臨床的妊娠(66.7%)があり、そのうち13例は継続妊娠または出生に至り(54%)、3例は流産となった。 

私見

子宮内膜が薄い場合のPRPについては文献を見ていると、もっと積極的にPRP注入療法を行ってもいいような気がします。PRP注入療法に伴う子宮内膜厚の増加、着床率、生化学妊娠・臨床的妊娠率の上昇は、子宮内膜が厚くならない女性にとって一つの選択肢になることは間違いありません。ただ、今後より多くのサンプル数を用いた大規模な無作為化比較試験が出てくるのを期待したいところです。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# PRP、PFC-FD

# 子宮内膜厚、形態

# 反復着床不全(RIF)

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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