体外受精

2021.08.10

子宮蠕動運動は胚移植成績に影響(Hum Reprod. 2014)

はじめに

胚移植後の妊娠率に子宮の蠕動運動が影響を与えていると考えられています。子宮の蠕動運動は排卵前に多く、排卵後に減少する傾向にあります(Ijlandら, 1997、Bullettiら, 2000)。プロゲステロンには子宮蠕動運動を抑制する作用があることがわかっています(Fanchinら, 1998、Muellerら, 2006、Zhuら, 2012)。
子宮の蠕動運動は胚移植の成績と関連があるのか、胚移植周期(新鮮胚移植、排卵周期下凍結融解胚移植、ホルモン調整周期下凍結融解胚移植)で子宮の蠕動運動頻度は異なるのかは皆さんが興味ある部分だと思います。
関連する論文をご紹介させていただきます。

ポイント

胚移植前の子宮蠕動頻度が高いほど臨床妊娠率は低下します。これは新鮮胚移植、排卵周期下凍結融解胚移植、ホルモン調整周期下凍結融解胚移植のいずれの方法でも同様です。子宮蠕動頻度が2.0波/分未満で最も妊娠率が高く、3.0波/分を超えると劇的に低下します。

引用文献

L Zhu, et al. Hum Reprod. 2014. DOI: 10.1093/humrep/deu058

論文内容

292名の体外受精患者を対象に、2013年3月から2013年8月にかけて実施された前向きコホート研究です。ロングプロトコールを用いた卵巣刺激後の新鮮胚移植(n=166)、排卵周期下凍結融解胚移植(n=69)、ホルモン調整周期下凍結融解胚移植(n=57)で子宮蠕動頻度と妊娠率の関係を評価しました。各移植ともに初期分割期胚を2個移植実施しています。子宮蠕動の経腟超音波検査は、胚移植の約1時間前に矢状断で子宮蠕動の5分間のビデオを記録しました。記録動画は2名の観察者によって4倍速で観察しています。

結果

ほとんどの患者の胚移植前の子宮蠕動頻度は1.1~3.0波/分でした。
臨床妊娠率は<2.0波/分の時に最も高く、波数の増加とともに低下し、特に>3.0波/分では劇的に低下しました。非妊娠患者群の子宮蠕動頻度は、新鮮胚移植、排卵周期下凍結融解胚移植、ホルモン調整周期下凍結融解胚移植のいずれの周期においても、臨床妊娠患者群よりも高い結果となりました。ロジスティック回帰分析により、胚移植前の子宮蠕動頻度と臨床妊娠との関連が示されました(オッズ比:0.49、95%CI:0.34-0.70、P < 0.001)。

私見

胚移植前の子宮蠕動頻度は、新鮮胚移植、排卵周期下凍結融解胚移植、ホルモン調整周期下凍結融解胚移植での臨床妊娠率と負の相関があります。
この論文の大事な論点は、胚移植前の子宮蠕動頻度と臨床妊娠率に関連があるということです。新鮮胚移植、排卵周期下凍結融解胚移植、ホルモン調整周期下凍結融解胚移植のどの胚移植方法でも関連があった点が重要です。
プロゲステロンは子宮蠕動頻度を減らすことがわかっていますが、新鮮胚移植、排卵周期下凍結融解胚移植、ホルモン調整周期下凍結融解胚移植でプロゲステロン濃度が異なるものの、子宮蠕動頻度には差がみられませんでした。
彼らは二つの仮説を立てています。ある一定のプロゲステロン濃度になった場合のみ子宮蠕動頻度が増加するのであって、過剰投与をしても減少しない可能性、そして内因性プロゲステロンの方が子宮蠕動頻度と強い相関がある可能性を提示しています。ともに面白い着眼点で、子宮蠕動頻度が過剰な場合はプロゲステロンの増量ではなく、その他の方法で抑制をかけることにより妊娠率を向上させるのかもしれません。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胚移植(ET)

# 子宮形態異常

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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