体外受精

2021.08.30

ルトラール®️を用いたPPOS(プロゲスチンプロトコール)(Fertil Reprod. 2020)

はじめに

PPOS(プロゲスチンプロトコール)は様々な黄体ホルモンを用いて行われています。黄体ホルモンの選び方は①排卵しないこと、②費用対効果です。MPAを用いた先行論文が多いので、海外ではMPAが使用されることが多いですが、日本ではデュファストン®️とルトラール®️を用いてPPOSを実施されることが多くなっています。ルトラールを用いたPPOSの論文をご紹介させていただきます。 

ポイント

ルトラール4mg/日以上の服用で早発LHサージを完全に抑制でき、GnRHアンタゴニスト法と同等の臨床成績が得られました。内服薬で費用対効果も高いため、ルトラール-PPOSは有用な卵巣刺激法として推奨されます。 

引用文献

Yuya Takeshige, et al. Fertil Reprod. 2020. DOI: https://doi.org/10.1142/S2661318220500048 

論文内容

日本のART施設で実施された後方視的研究です。ルトラールを12、6、4、2mg/日服用した4群、あるいはGnRHアンタゴニストを用いた群の231周期で実施しました。ルトラール-PPOS群では、月経周期3日目よりルトラール+hMG or FSHの投与を実施しました。早発LHサージ率、胚成績、臨床成績を検討しました。 

結果

早発LHサージはルトラール12、6、4mg/日-PPOS群で完全に抑制できました。GnRHアンタゴニスト法では一部に早発LHサージが認められました(5.9%、7/118)。しかし、どの群でも排卵は認められず、臨床成績は同等でした。 
ルトラールは内服薬で費用対効果も高いため、ルトラール-PPOS群は有用な卵巣刺激法であることが認められました。ルトラール4mg/日を連日服用することで、早発LHサージを起こすことなく卵巣刺激を行うことができました。 
当検討でルトラール2mg/日ではなく4mg/日を推奨した理由は、2mg/日の1例が途中で早発性LHサージ(LH:12.0mIU/mL)を示したからです。この段階で、投与量を2mg/日から4mg/日に変更したところ、早発LHサージは抑制され(LH:4.5mIU/mL)、回収卵子数、結果も異常ない結果に落ち着いています。 

私見

ルトラールは経口投与後、速やかに吸収されfirst pass effectをほとんど受けず、バイオアベイラビリティはほぼ100%です。単回投与後の半減期時間は約34時間、複数回投与の場合は約38時間です(Curran et al. Drugs. 2004)。脂肪組織に蓄積され排泄はゆっくり行われ、7日後には投与量の34%しか排泄されていません(Adolf E. Schindler, et al. Maturitas. 2008)。飲み忘れても持続効果が高く、premature LHサージ抑制には相性がよいのではないかと思っています。 
ルトラールは保険適用下でのPPOSに対する黄体ホルモン製剤として使用できませんので、最近使用頻度が低下しています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# PP(PPOS)

# 卵巣刺激

# 費用対効果

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

トリガーから採卵までの最適時間:GnRHアゴニストvs hCG(F S Rep. 2025)

2025.11.26

PP法とGnRHアンタゴニスト法比較:システマティックレビューとメタアナリシス(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.09.19

DYD-PPOS vs. MPA-PPOS vs. GnRHアンタゴニスト(J Assist Reprod Genet. 2025) 

2025.07.08

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.07.03

フォリトロピンデルタを用いたPPOS法 vs. アンタゴニスト法(Cureus 2025)

2025.06.05

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

PGT-Aによる体外受精での出産までの期間への影響(Fertil Steril. 2025)

今月の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

2025.06.09

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

2024.03.14