体外受精

2021.10.02

施設のICSI受精率が患者の累積出生率に影響する?(Fertil Steril. 2021)

はじめに

国内には2025年現在、600を超える体外受精クリニックがあります。患者様によりよい医療を提供するために、医師だけではなく看護師・培養士とも様々なクオリティーコントロールを行なっていくことが大事とされています。その中の一つにクリニックの培養環境の安定性を評価するVienna Consensusがあります。ヨーロッパ生殖医学会が推奨する基準ですが、私たちもクリニックの質の評価のために日々管理しています。今回、ICSIの受精率の良し悪しが最終的なクリニックの累積出生率に関連するかどうか評価した報告がでてきましたのでご紹介させていただきます。

ポイント

ICSI受精率が高い施設ほど累積出生率も高くなる傾向があり、受精率は施設のクオリティ評価において重要な指標となることが示されました。受精率65%未満の施設と比較して、65-80%の施設では2.14倍、80%以上の施設では3.08倍に累積出生率が上昇しています。

引用文献

Giulia Scaravelli, et al. Fertil Steril. 2021.DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.04.006

論文内容

累積出生率の予測因子としての顕微授精(ICSI)の受精率が役に立つかどうかを評価することを目的として、イタリアの体外受精10施設で行われた多施設共同レトロスペクティブコホート研究です。9,394回のICSIを実施した7,968組の不妊カップルで検討しています。
評価項目としてICSI受精率(65%未満:グループ1、65%~80%:グループ2、80%以上:グループ3)と関連した累積出生率を主項目とし、女性年齢(34歳未満、35~38歳、39~42歳)、回収卵子数(5~7個、8~10個、10個以上)にわけて層別化しました。

結果

累積出生率はICSI受精率と関連し高くなりました(累積出生率:65%未満:20.1%、65%~80%:34.7%、80%以上:41.3%)。回収卵子数、1周期あたりの有効胚数も増加するにあたり累積継続妊娠率が上昇しました。母体年齢が上昇すると累積出生率が低下しましたが、どの年齢層をみても受精率が高い群は累積出生率が高くなりました。多変量ロジスティック回帰分析では、ICSI受精率が累積出生率に影響を与える独立因子であることがわかりました。
今回の対象症例は18歳から42歳までのすべての女性を対象としました(平均年齢36歳前後)。解析対象から除外されているのは、TESE症例、がん・生殖症例、採卵したけれど移植できなかった症例、PGT症例、IVF症例、治療は完結していない症例です。

私見

ICSI受精率と施設の累積出生率には正の相関があることが示されました。
今回の結果は当然の結果だと思います。受精率が高くなると、結果として有効胚数、移植数も増えるわけなので。65%と80%がカットオフとして採用されたのもVienna ConsensusでICSI受精率のcompetency基準、benchmark基準と設定されているからです。多変量解析の結果、ICSI受精率が65%未満の施設にくらべて65-80%の施設では2.14倍、80%以上の施設では3.08倍に累積出生率が上昇しています。
当院でも日々、胚培養士が一人でも多くの患者様を助けたい一心で研鑽している姿を見ているので、このような報告が出てくるのは本当に嬉しい限りです。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 顕微授精(ICSI)

# 受精

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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