不育症

2021.10.11

妊娠初期に出血した女性の流産予防(Lancet. 2021)

はじめに

妊娠初期の性器出血は一般的です。妊娠初期の性器出血と周産期合併症との関連を示唆する報告(妊娠初期の性器出血と周産期合併症(Lancet. 2021))があることから、妊娠女性に起こっている妊娠初期の性器出血が、流産を含めて周産期リスクの高いものか、そうでないかの鑑別が必要だと考えています(ほとんどの場合は軽症で治療の対象にはなりません)。また妊娠初期の性器出血について4種類の介入(プロゲステロン、hCG、子宮収縮抑制薬、ベッド上安静)について6つのシステマティックレビューでまとめられている現状をご紹介いたします。

ポイント

妊娠初期に出血した女性の流産予防として、プロゲステロン補充(デュファストン®や膣剤)は一定の流産予防の効果を認め、hCG投与は効果なく、子宮収縮抑制薬やベッド上安静の効果を示す報告はほとんどありませんでした。

引用文献

Siobhan Quenby et al. Lancet. 2021. DOI: 10.1016/S0140-6736(21)00682-6

論文内容

①プロゲステロン

プロゲステロン補充は、妊娠初期の性器出血を伴う流産を予防する治療法として検討されてきています。異なる種類、用量、プロゲステロン/プロゲスチンのレジメ(合成経口プロゲステロンであるジドロゲステロン(デュファストン®)と、天然のプロゲステロン製剤(プロゲステロン膣剤))を使用した4つのシステマティックレビューでは流産率・出生率が報告されています。

●デュファストン®は出生率の増加と関連しています(RR 1.16、95%CI 1.03-1.30)。
質は低いとされていますが、2本の論文が引用されています(El-Zibdeh MY, et al. Maturitas 2009.、Pandian RU, et al. Maturitas 2009.)。国内では2021年10月現在、切迫流産に対して保険収載されています。

▶El-Zibdeh MYらは146名の妊娠初期に性器出血があった症例にデュファストン®10mg/day(86名)と対照群(60名)で無作為に2群にわけ、性器出血が止まった1週間後まで継続しました。流産率はデュファストン®投与群が無治療群よりも有意に低くなりました(17.5% vs. 25%;p<0.05)。妊娠合併症や先天性異常に関しては、両群間に統計学的に有意な差は認めませんでした。

▶Pandian RUらは191名の妊娠初期に性器出血があった症例にデュファストン®40⇨20mg/day(96名)とベッド上安静群(95名)で無作為に2群にわけ、治療は妊娠16週まで継続しました。デュファストン®投与群の継続妊娠率はベッド上安静群に比べて有意に高くなりました(87.5% vs. 71.6%、p<0.05)。流産率はデュファストン®投与群が安静群よりも有意に低くなりました(12.5% vs. 28.4%、p<0.05)。帝王切開、前置胎盤、分娩前出血、早産(28〜36週目)、妊娠高血圧症候群、低出生体重児(2500g未満)、子宮内死亡、先天性異常に差はありませんでした。

デュファストン®使用が先天性心疾患と関連している可能性を示す症例対照研究が存在することが懸念材料として挙がっています。
先天性心疾患で生まれた202人の子供と、200人の子供からなる対照群との間でデータを収集し比較検討されたレトロスペクティブな症例対照研究です。子供の染色体異常がある症例や糖尿病などの母体合併症があった症例は除いています。
先天性心疾患を持つ子どもの母親は、対照群の子どもの母親に比べて、妊娠初期にデュファストン®を多く投与されていました(調整オッズ比2.71、95%CI 1.54-4.24、P = 0.001)。この報告はガザ地区からの報告でガザ地区では以前より妊娠初期の性器出血の有無にかかわらずデュファストン®を内服させる慣習があるようです。出産に至る先天奇形の頻度は約3%であり、心奇形は先天奇形の中で最も頻度が高く約1%(出産児100人に1人)と言われています。様々な要因で起こりますので、少しでも減らす努力は必要ですが、こちらの報告も同様に質が低くデュファストン®が有用であったとした論文では先天性心疾患が上昇していないことから個人的には使用は問題ないと考えています。ただし、第一子目に先天性心疾患を出産されているご夫婦には情報提供を行うようにしています。(個人的には質が低い一論文をリファレンスにしてLancetに記載しないで欲しかったなと思っています。。。)

●プロゲステロン腟剤は出生率または継続妊娠率の増加と関連していました(RR 1.04; 95% CI 1.00-1.08)。英国で実施された大規模で質の高いプラセボ対照試験であるPRISM試験(4038人参加)から得られた結果で、妊娠初期の性器出血と1回以上の流産既往の女性においてプロゲステロンの効果が検討され投与により出生率が大幅に増加することがわかりました。この内容は別途別コラムで解説いたします。

②hCG投与は効果なし

妊娠初期の性器出血がある女性に対してhCG投与の効果について3つの小規模な試験が報告されていますが、流産率の低下、出生率の上昇ともに認めませんでした。

③子宮収縮抑制薬やベッド上安静の効果を示す報告はほとんどありません。

私見

妊娠初期の性器出血は問題ないなと思う症例がほとんどである一方、一部の症例では分娩時に大きめの病院を選んでいただいております。妊娠初期から適切な介入をすることにより出生率の向上に努められたらと思っています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胎盤異常

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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