不育症

2021.10.23

着床前検査(PGT-A)は不育症患者の出生率を改善できる(Hum Reprod. 2021)

はじめに

着床前検査は、出生率や費用対効果の一面から考えると、『すべての不妊患者において着床前検査を日常的に使用することを推奨するには十分な証拠がない』としています(米国生殖医学会、2018年)。どのような患者様に提供すればいいのか、これから本格的に実施を開始する我々が向き合う大事なポイントになってきます。その中で不育症患者について有用性があるのかどうか検討した論文をご紹介します。

ポイント

反復流産の既往がある女性に対してPGT-Aを実施すると、実施しない場合と比較して出生率が有意に上昇し、特に高年齢になるほどその差が顕著であることが示されました。流産率の有意な低下は認められませんでしたが、着床不成功や生化学的妊娠が減少することで最終的な出生率の改善につながることが明らかになりました。

引用文献

S J Bhatt, et al. Hum Reprod. 2021. DOI: 10.1093/humrep/deab117

論文内容

Society of Assisted Reproductive Technologies Clinical Outcomes Reporting System(SART-CORS)が2010〜2016年に収集した体外受精周期を対象としました。
10,060組のカップルの合計12,631回の凍結融解胚移植を対象としています。反復流産(3回以上の流産既往)のカップルが含まれ、PGT-Aを使用するかしないかに関わらず凍結融解胚移植を受けました。主要評価項目は出生率、副次評価項目は臨床的妊娠率、流産率、生化学的妊娠としました。差異分析には、患者ごとの複数サイクルを考慮したGEE regressionモデルを用いました。モデルに含まれた共変量は、年齢、分娩回数、地域、人種/民族、喫煙歴、および体外受精の適応としました。SARTで定義された年齢層(35歳未満、35〜37歳、38〜40歳、41〜42歳、42歳以上)で層別化しています。

結果

反復流産と診断された女性において、PGT-Aを用いた凍結融解胚移植とPGT-Aを用いない凍結融解胚移植とを比較した調整済みオッズ比(OR)、95%CIは以下の通りでした。 

 生児出産率 臨床妊娠率 流産率 
35歳未満 1.31(1.12、1.52) 1.26(1.08、1.48) 0.95(0.74、1.21) 
35~37歳 1.45(1.21、1.75) 1.37(1.14、1.64) 0.85(0.65、1.11) 
38~40歳 1.89(1.56、2.29) 1.68(1.40、2.03) 0.81(0.60、1.08) 
41~42歳 2.62(1.94、3.53) 2.19(1.65、2.90) 0.86(0.58、1.27) 
42歳以上 3.80(2.52、5.72) 2.31(1.60、3.32) 0.58(0.32、1.07) 

反復流産女性におけるPGT-Aを実施することで出生率が非常に有意に増加し、年齢が上がるにつれてより顕著な差が認められました。 

私見

報告者らはPGT-Aを実施することにより流産率が著明に減ると予測していましたが、有意差をもって変化したのは出生率と臨床妊娠率でした。
反対に考えると反復流産患者様の凍結融解胚移植においては、(着床しない+生化学的妊娠)が減ることにより最終的に良好な結果に辿り着くことがわかります。
体外受精は本当に論文のデータの解釈、そして自施設の成績をもって患者様に医療を提供していくことの大事さを感じています。その中で流産・生化学的妊娠率をしっかり把握することは本当に大事なポイントになります。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 流産、死産

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# 不育症(RPL)

# 凍結融解胚移植

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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