はじめに
反復着床不全は良好胚を繰り返し移植するにもかかわらず着床が成立しない症例と定義されています。ただし、女性年齢によって胚盤胞の正倍数性(異数性)の割合は異なります。着床不全の一番の主たる原因は移植する胚の異数性と言われていますので、一概に何個戻したら女性の身体側に原因がある可能性が高いかという議論は女性年齢によって異なってきます。
反復着床不全の検査・治療は強く疾患を疑うときに実施すべきですが、この治療は赤ちゃんが生まれることが患者さまの主たる治療目的ですので、貴重胚の場合は先に原因精査することも行われています。
今回紹介する論文で①受精胚の質以外に着床不全に影響する因子、②胚盤胞の女性年齢による正倍数性胚の割合、がまとまっていたのでご紹介いたします。
ポイント
反復着床不全原因は胚異数性が主ですが、女性年齢により正倍数性胚の割合が異なるため、子宮側の検査時期は個別判断が必要です。生活習慣や子宮因子など胚の質以外の要因も重要であり、適切なタイミングでの原因精査と治療介入が求められます。
引用文献
Baris Ata, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.06.045
論文内容
受精胚の質以外に着床不全に影響する因子
| 原因 | 因果関係 | 診断方法 | 反復着床不全前に診断するべき? | EBMに基づいた治療 | 最初の体外受精前に対応するべき? |
|---|---|---|---|---|---|
| 生活習慣 | |||||
| 喫煙 | 妥当 | 問診票 | するべき | やめること | するべき |
| アルコール | 妥当 | 問診票 | するべき | やめること | するべき |
| 肥満 | 妥当 | 身体測定 | するべき | Weight loss | するべき |
| 配偶子の質 | |||||
| 卵子 | 妥当 | なし | 該当するものなし | 該当するものなし | 研究以外で必要なし |
| 精子 | 妥当 | なし | 該当するものなし | 該当するものなし | 研究以外で必要なし |
| 子宮因子 | |||||
| 中隔子宮 | 意見がわかれる | 超音波検査/HSG | するべき | 子宮鏡下切除 | 必要と判断した場合 |
| 粘膜下筋腫・内膜ポリープ | 妥当 | 超音波検査/HSG | するべき | 子宮鏡下切除 | するべき |
| 筋層内筋腫 | 妥当 | 超音波検査 | するべき | 手術 | するべき |
| 子宮内腔癒着 | 妥当 | 超音波検査/HSG | するべき | 子宮鏡下切除 | するべき |
| 子宮腺筋症 | 意見がわかれる | 超音波検査 | するべき | 手術やGnRHagonist療法 | するべき |
| 子宮内膜受容能のずれ | 意見がわかれる | Receptivity arrays | 研究以外で必要なし | 該当するものなし | |
| 子宮付属器疾患 | |||||
| 卵管水腫 | 妥当 | 超音波検査/HSG | するべき | 卵管切除もしく卵管結紮 | するべき |
| 内膜炎 | 意見がわかれる | 超音波検査 | するべき | 手術や内服治療 | するべき |
| その他 | |||||
| 血栓素因 | 意見がわかれる | 採血 | いいえ | 該当するものなし | 研究以外で必要なし |
胚盤胞の女性年齢による正倍数性胚の割合
| 35歳未満 | 35-37歳 | 38-40歲 | 41-42歳 | 43歲以上 | |
|---|---|---|---|---|---|
| Ata et al. 2012 | 60%-63% | 51%-55% | 36%-39% | 21%-25% | 13%-17% |
| Demko et al. 2016 | 60% | 55% | 45% | 35% | 20% |
| Barash et al. 2017 | 62% | 57% | 44% | 30% | |
| Hong et al. 2019 | 74% | 65% | 47% | 29% | 15% |
| Irani et al. 2020 | 55% | 45% | 32% | 18% | 8% |
結果
- Ata B, et al. Reprod Biomed Online 2012
- Demko ZP, et al. Fertil Steril 2016
- Barash OO, et al. Hum Reprod 2017
- Hong KH, et al. Fertil Steril 2019
- Irani M, et al. Hum Reprod 2020
私見
最近、反復着床不全は何回ダメだったら子宮側検査すべきでしょうか、という質問をよく受けます。化学流産を入れるべきか、出産歴があってもすべきか、良好胚がなかった場合の移植回数はどうかなど。3回以上の良好胚を移植したあと、累積着床率60%以上となる胚を複数回胚移植したあと、などの論文上のカットオフはあります。ただし、残り保険回数や患者様に臨床症状や検査・治療の価値観は様々なので適宜対応が求められます。
木を見て森を見ずの議論が、情報過多の時代だからこそ妊娠していない今何を選択していくべきかに関して最後の意思決定は患者さまにあるべきだとは思いますが、ネットの情報と医療者が日々積み重ねている知識のアップデートを比較し会話されることに落胆することが多々あります。
ただ、時代の流れを感じるとともに、患者に生殖医療を信じられない環境を作った私たちにも原因があるのだろうなと反省をする日常です。
全員が妊娠できる治療がないからこそ、お互い相手を尊重しあい意思決定を委ねられる環境を作っていくことが体外受精の保険適用なんかより大事なことだと思っています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。