一般不妊

2021.12.14

関節リウマチ・炎症性腸疾患の体外受精成績は?(Fertil Steril. 2021)

はじめに

関節リウマチ(RA)および炎症性腸疾患(IBD:潰瘍性大腸炎やクローン病など)が不妊となるリスクが高いことがわかっています。まだまだRA/IBD女性の体外受精成績に関する文献は多くありません。現在のところ、RA女性は非罹患女性より体外受精成績が低下する報告(Norgard BM, et al. Ann Rheum Dis 2019.)、潰瘍性大腸炎やクローン病の女性では非罹患女性より体外受精成績が低下する報告(Norgard BM, et al. Gut 2016;65:767–76.、Friedman S,et al. Inflamm Bowel Dis 2017.)がなされています。ではどのような因子が体外受精結果に影響を与えるのでしょうか。 
デンマークの全国調査での結果をご紹介いたします。 

ポイント

RA/IBD女性において副腎皮質ステロイドの胚移植前処方と胚盤胞期移植が出産率向上に寄与し、顕微授精(ICSI)は出産率低下と関連していました。抗炎症剤や免疫抑制剤は関連しませんでした。 

引用文献

Bente Mertz Nørgård, et al. Fertil Steril. 2021. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.07.1198 

論文内容

2006年から2018年に新鮮胚移植を受けたデンマーク名女性全員を対象としたコホート研究です。関節リウマチ(RA)および炎症性腸疾患(IBD)の女性の胚移植1,824件をRA/IBD非罹患女性の胚移植97,191件と出産率を比較しました。 

結果

体外受精を実施するRA/IBD女性が出産する確率は、他の女性と比較して、調整済みオッズ比(OR)0.79(95%CI、0.68-0.91)でした。胚移植前に処方された副腎皮質ステロイドは出産と正の関連がありました(調整後OR、1.21;95%CI、1.12-1.31)が、抗炎症剤および免疫抑制剤は関連しませんでした。顕微授精(ICSI)は出産率の低下と関連していました(調整後OR、0.94;95%CI、0.90-0.97)。黄体補充は関連なく、胚盤胞移植は出産率が高くなりました(調整後OR、1.54;95%CI、1.46-1.62)。 
RA/IBD女性において、胚移植前に副腎皮質ステロイドを処方し胚盤胞期に胚移植を行うことは出産率の向上に寄与し、顕微授精(ICSI)は低下する傾向がありました。抗炎症剤や免疫抑制剤は関連しませんでした。 

私見

関節リウマチ(RA)および炎症性腸疾患(IBD)女性における副腎皮質ステロイドの使用が生殖医療治療成績に影響を与えるかは意見が分かれています。 
2012年に行われたコクラン・レビューでは副腎皮質ステロイドが体外受精の出産を向上させる根拠がありませんが、症例を限定すると妊娠率に影響を与える可能性についても触れています(Boomsma CM, et al. Cochrane Database Syst Rev 2012)。 
臨床をしていて日々思うのは治療のバランスの大事さです。 
着床には一定の炎症が必要ですが、この環境が過剰すぎても過少すぎても結果を伴いません。適切な炎症を調整するために副腎皮質ステロイドが必要な方もいるはずで、個々に適切な薬剤使用量も異なってくるはずです。今回は薬の種類や量については言及されていませんが、治療を考えさせてくれる論文だと思います。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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