体外受精

2021.12.17

英国におけるPGT-A結果(J Assist Reprod Genet. 2021)

はじめに

2015年Changらは、米国の2011~2012年SARTデータベースからPGTの結果を発表し、PGT-Aの5,471周期とPGT-Aでない体外受精の97,069周期を比較して、生児出産のオッズの上昇を報告しましたが(aOR 1.43; 95% CI, 1.26-1.62)、母体年齢が37歳以上(aOR 1.43)、35~37歳(aOR 1.13)のPGT-A患者では移植1回あたりの生児分娩のオッズが上昇しましたが、母体年齢が35歳未満(aOR 0.82)では上昇しませんでした(Chang J, et al. Fertil Steril. 2016)。 
英国では「PGT-Aが有効または安全であるという証拠はない」とするステートメントを出しており、体外受精あたりのPGTの割合は米国では13~27%がPGT-Aであるのに対し英国では2%未満となっています。英国のPGT-Aの現状成績をふまえた報告です。 

ポイント

英国のデータベースを用いた研究で、PGT-Aは全年齢層において移植胚あたりおよび治療周期あたりの出生率を有意に上昇させることが示されました。特に40歳以上では生児出産1名あたりの移植回数が減少し、ほぼ全例で単一胚移植が実施されています。 

引用文献

Kathryn D Sanders, et al. J Assist Reprod Genet. 2021. DOI: 10.1007/s10815-021-02349-0 

論文内容

英国のHuman Embryology and Fertilization Authority(HFEA)における2016~2018年のデータベースを用いて胚異数性のための着床前検査(PGT-A)を行った場合と行わなかった場合に報告された、生児出生およびその他の転帰(総周期数、胚移植を実施できなかった周期数、移植あたりの胚数、移植胚あたりの出生率、治療周期あたりの出生率)を調べることを目的としたレトロスペクティブなコホート研究です。母親年齢でグループ分けした以外は、それ以上の交絡因子をコントロールせず、新鮮および凍結融解胚移植を対象としました。 

結果

データが得られた190,010周期のうち2,464周期がPGT-Aでした。移植胚あたりの出生率、治療周期あたりの出生率(移植を行わなかった周期を含む)は、PGT-Aは非PGT-Aに比べて、すべての年齢層(35歳未満を含む)で有意に高く、PGT-A後には、ほぼすべての単一胚移植が行われ、特に母親年齢が40歳を超える周期では、出生1名あたりの移植回数が減少しました。 

このレトロスペクティブ研究は、移植胚あたりの出生率、治療周期あたりの出生率はPGT-Aのアドバンテージを示していますが、他の交絡因子を今回の論文では除去できていません。ただし、HFEAが「PGT-Aが有効または安全であるという証拠はない」とするステートメントは再検討することを考慮する時期と考えられます。 

私見

胚盤胞生検を行い、NGSベースのPGT-Aを実施しガラス化凍結融解胚移植を行ったSTAR試験(Munné S, et al. Fertil Steril. 2019)では、PGT-Aと非PGT-Aの各周期の妊娠20週までの継続率に差がありませんでした。しかし母体年齢別にみると、35~40歳のポストホック分析では、PGT-Aは非PGT-A周期に比べて胚移植1回あたりの継続妊娠率が51% vs. 37%と有意に増加しています。 
国内でも反復着床不全、反復流産、35歳以上の高齢女性と適応が拡大されています。患者様にどのように提供していくか生殖医療機関の方針によってくると思います。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# 疫学研究・データベース

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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