はじめに
稽留流産の薬物治療は、流産手術を避け自然排出を図ることで、子宮穿孔や感染症、麻酔の副作用などの合併症を軽減することができます。妊娠初期の稽留流産に対してミソプロストールを用いた内科的治療は、流産手術より時間がかかりますが、患者の71%が3日目までに、84%が8日目までに排出するという報告もあります(MIST試験: J. Trinder,et al. Br Med J. 2006)。実際、手術を避けることで次回妊娠への影響はどうなるのでしょうか。自然排出後、1年までの累積妊娠率を示した報告をご紹介いたします。
ポイント
妊娠初期の稽留流産に対する内科的治療と流産手術の比較において、治療終了後1年以内の累積妊娠率、出生率、反復流産率は両群間で同等であり、手術を行っても妊娠率は低下しませんでした。
引用文献
Yossi Tzur, et al. Fertil Steril. 2021.DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.07.016
論文内容
妊娠初期の稽留流産に対しての内科的治療と手術との流産終了後の短期的な妊娠率(3、6、9、12ヶ月後)の妊娠率を比較しました。
2017年6月から2018年5月に流産手術を行った106名、ミソプロストールを経腟投与して自然排出を促し内科的治療を行った97名の203名(18~40歳女性で、CRLから妊娠11週未満、最終月経から妊娠13週未満の稽留流産で感染兆候や進行流産の傾向がない場合)のカルテを後方視的に検討しました。今回は稽留流産と診断がついた後に手術を行う患者は1週間以内に流産手術を、内科的治療群はミソプロストール800μgを腟内投与、投与後5~7日目に排出が起こっていなければ再度800μgとしました。治療不成功は流産手術後、もしくは2回ミソプロストールを行っても6週間後の経腟超音波で15mm以上の遺残が残っていることと定義しました。
結果
内科的治療群は遺残率22.7%と流産手術群の遺残率2.8%より高率でした。しかし、流産排出後、妊娠を試みた女性での6カ月後の妊娠率は、内科的治療群と流産手術群で同等でした(68.0% vs. 65.1%)。患者背景として内科的治療群(32.1歳)で1.7歳女性年齢が若く、5日流産時期が早かったことを除けば、両群間に有意な差はありませんでした。体外受精での妊娠割合も内科的治療群と流産手術群で差がありませんでした(それぞれ15.5% vs. 12.6%)。妊娠までの期間(中央値)は、両群とも4±2カ月でした。流産終了から12カ月後の累積妊娠率、出生率、反復流産率も両群間で同等でした。
初期流産には手術を行っても1年以内の妊娠率は低下しません。
私見
今回の結果では妊娠初期の稽留流産に対しては自然排出群、流産手術群ともに治療終了後の短期的な妊娠率には差を認めませんでした。
| 3ヶ月 | 6ヶ月 | 9ヶ月 | 12ヶ月 | |
| 内科治療群 | 39.2% | 68.0% | 82.1% | 85.8% |
| 流産手術群 | 34.0% | 65.1% | 80.4 | 85.6% |
稽留流産に対して流産手術を避け自然排出を図ることで、子宮穿孔や感染症、麻酔の副作用などの合併症を軽減することができます。妊娠初期の稽留流産に対してミソプロストールを用いた内科的治療は、流産手術より時間がかかりますが、患者の71%が3日目までに、84%が8日目までに排出するという報告があります(MIST試験: J. Trinder,et al. Br Med J. 2006)。成績が下がらないなら、より早期に次の妊娠に移行できる流産手術を選ぶか、外科的手技を避けることができる内科的治療を選ぶか、どちらに軍配があがるかは難しいところです。ある一定期間を区切って自然排出を期待し、排出が見られない場合は2週間を目処に手術を検討してもよいのかもしれません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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