体外受精

2021.12.17

着床前検査での異数性胚は基本、妊娠継続しない(Fertil Steril. 2021)

はじめに

異数性を確認するための着床前診断(PGT-A)は、異数性の胚を移植するリスクを減らすことを目的としたツールです。S. MunnéらのRCTではPGT-Aの使用による臨床的有用性を認めませんでしたが(Fertil Steril.2019)、他のRCTでは移植胚1個あたりの着床率の増加、妊娠までの期間の短縮、流産率の低下などPGTの有用性を示している報告が多くあります(Z. Yang, et al.Mol Cytogenet. 2012. R.T. Scott Jr, et al. Fertil Steril. 2013. C. Rubio,et al. Fertil Steril.2017.)。また、S.A. Nealらは複数の胚を得られた場合の費用対効果の有用性などを報告しています(Fertil Steril. 2018)。
PGTの妊娠後の予後ですが、S. Desmyttereら(Hum Reprod. 2012.)とH. Heら(Fertil Steril. 2019.)は、それぞれ995名と1,721名の新生児を評価した結果、新生児の有害な転帰に差がないことを報告しています。

ポイント

PGT-Aで異数性と診断された胚は妊娠継続に至らず、正倍数性胚では64.7%が妊娠継続・出産に至りました。trophectoderm生検は妊娠継続率に悪影響が軽微であることが示されました。

引用文献

Ashley W Tiegs, et al. Fertil Steril. 2021.DOI: 10.1016/j.fertnstert.2020.07.052

論文内容

前向き、盲検、多施設、非選択的試験です。移植可能な胚盤胞はすべてPGT-Aを実施し、形態的に最も良好な胚盤胞1個をPGT-Aの結果告知前に移植しました。
PGT-Aの結果は臨床結果が決まった後(妊娠継続している場合は妊娠13週ごろ)に告知しました。生殖医療成績とPGT-A結果を比較し検討しました。
初回の体外受精を行うカップル(女性年齢18-44歳)を対象に不育症患者、AFC 8個未満の卵巣機能不全女性(AFC <8個や卵胞期FSH >12mIU/mL)、肥満(BMI 35kg/m2以上)、子宮内膜が排卵前に6mm以下などの内膜菲薄化症例、子宮内と交通のある卵管水腫症例などの女性、TESE症例は除外しています。
主要評価項目はPGT-A結果が臨床成績結果とどのようにマッチしているか予測できるかどうかとしました。副次評価項目はtrophectoderm生検が継続妊娠率に与える影響を見るために、同じ期間に体外受精を行なったtrophectoderm生検を実施していないカップルについて可能な限り女性年齢、AFC、有効胚盤胞数、移植胚盤胞形態をマッチさせて検討しました。

結果

4,002組のカップルが484件の単一凍結融解胚盤胞移植を受けました。PGT-Aによる異数体と診断されて妊娠継続された症例は0でした。trophectoderm生検を実施しなかったグループと比較したところ、継続妊娠率に差はありませんでした(47.9%対45.8%)。
PGT-A結果で異数性と結論付けられた場合、出産に至らない確率が高いことが示されました。またtrophectoderm生検は継続妊娠率に悪影響を与えないことがわかりました。

詳細な結果

PGT-Aで正倍数性胚と診断された胚の64.7%(n=202/312)が妊娠継続・出産に至ったのに対し、異数性と診断された胚で妊娠継続・出産に至った割合は0%(n=0/102)でした。
PGT-Aで正倍数性胚と診断された312個の移植胚のうち、82.1%(n=256/312)着床、9.0%(n=28/312)生化学妊娠、7.4%(n=23/312)流産、1.0%(n=3/312)部位不明妊娠または異所性妊娠、64.7%(n=202/312)が妊娠継続・出産となりました。2症例が先天性障害のため堕胎。1名は胎児心疾患のために妊娠第2期で堕胎(POC;46,XY)、もう1名は全前脳胞症のために妊娠第1期の堕胎(13番染色体にde novoの微小欠失(1.1Mb)であり、通常のPGTでは検出不可能)でした。
PGT-Aの結果が異数性と診断された胚移植の40.2%が着床、23.5%に臨床的妊娠でしたが、全症例流産となりました。
PGT-Aでモザイクと判断され移植した16個(移植総数の3.3%)の転帰は、着床なし1個(6.3%)、生化学妊娠が2個(12.5%)、流産が2個(12.5%)、妊娠継続・出産が11個(68.8%)でした。
PGT-Aでセグメントモザイクと判断され移植した39個(移植総数の8.1%)の胚の転帰は、着床なし20個(51.3%)、生化学妊娠5個(12.8%)、流産2個(5.1%)、妊娠継続・出産12個(30.8%)でした。

私見

PGT-Aは、調べれば調べるほど、どのような患者様に勧めるべきなのか悩ましく感じます。私が一番ネックと感じるのは患者様の金額負担です。価値観によるのでしょうが、私にとってPGT-Aも着床不全の検査も患者様に気軽に勧められる値段設定ではないと思っています。2025年秋より反復流産、反復着床不全のほか35歳以上女性も自費診療であればPGTを選択できるようになりました。「なぜ検査を先に勧めなかったのか?」とおっしゃる患者様もおられますので、いつも患者様にどのような情報提供が好ましいのか悩ましく感じる日々です。
全て情報提供してほしいという気持ちも重々理解しているのですが、病気のメカニズムはそんなにクリアに様々なことが線引きできないので、結局は医師サイドでラインを引かなくてはいけない部分なんだと感じています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# 凍結融解胚移植

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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