はじめに
PGT-Aを行なっていくと、染色体の一部のみが異常増減を示すsegmental aneuploidyが存在します。これらの特徴を調べた報告をご紹介いたします。
ポイント
PGT-Aで検出されるsegmental aneuploidyは全胚盤胞の5%前後に認められ、母体年齢との関連性については報告により見解が分かれるものの、父親年齢や培養環境などの影響が示唆されており、今後さらなる研究が期待されます。
引用文献
①segmental aneuploidは母親年齢に関係なく、そのほかの因子だという報告
María-José Escribà, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2019. DOI: 10.1186/s12958-019-0515-6
論文内容
2016年1月から2017年4月までに単一生殖医療施設で822症例3,565個(女性年齢 38.8±3.2歳 95CI: 38.6–39.0)のtrophectodermによるPGT-A(NGS)のレトロスペクティブ研究です。フラグメントサイズが5Mb以上の場合をsegmental aneuploidyと診断しました。全染色体の増減なく一箇所のsegmental aneuploidyを示した胚盤胞をさまざまな因子で検討・解析いたしました。
結果
胚盤胞の8.4%(299/3565)がsegmental aneuploidyを示しました。gainとlossの頻度はほぼ同じです。
| 症例数(割合) | |
| 正常核型 | 1656 (46.4) |
| segmental aneuploidyを伴わない染色体全体の異数性 | 1610 (45.2) |
| single segmental aneuploidy(染色体全体の異数性を伴わない) | 159 (4.5) |
| >1 segmental aneuploidy(染色体全体の異数性を伴わない) | 13 (0.4) |
| single segmental aneuploidy(染色体全体の異数性を伴う) | 115 (3.2) |
| >1 segmental aneuploidy(染色体全体の異数性を伴う) | 12 (0.3) |
中型であり動原体の位置が中部または次中部の染色体の長腕に多く見られ、これらはtrophectodermに関係する変数でした。染色体ごとのsingle segmental aneuploidyの発生率を調べたところ、C群に最も明確に関連しており、次いでA群とB群でした。
| 群 | 番号 | 大きさ | 動原体の位置 |
| A | 1-3 | 大 | 中部 |
| B | 4-5 | 大 | 次中部 |
| C | 6-12, X | 中 | 中部 または次中部 |
| D | 13-15 | 中 | 端部(付随体あり) |
| E | 16-18 | 比較的短 | 中部 または次中部 |
| F | 19-20 | 短 | 中部 |
| G | 21-22, Y | 短 | 端部(付随体あり) Yは付随体なし |
single segmental aneuploidyのサイズは染色体番号や腕の大きさに関係していました。染色体の大きさに対してsingle segmental aneuploidyの占める比率は全ての染色体で一定であり、染色体の50%を超えることはありませんでした。
single segmental aneuploidyの発生に関する文献は少ないですが、染色体全体の異数性やモザイクのメカニズムとは異なると考えられています。segmental aneuploidyは有糸分裂時の障害に関連しているようであり、母体の年齢には依存していません。single segmental aneuploidyはtrophectodermの質と関連しているようです。卵巣刺激、体外培養環境の違いで発生率も異なることも懸念されており、施設のQuality control指標にもなる可能性を秘めています。
引用文献
②segmental aneuploidは母親年齢に関係するという報告
ASRM 2021 poster Jenna Reichら
論文内容
2015年1月から2020年12月までに単一生殖医療施設で30,300個(女性年齢 38.8±4.7歳)のtrophectodermによるPGT-A(NGS)のレトロスペクティブ研究です。
結果
segmental aneuploidyは711個(2.3%)であり、母体年齢が高くなるにつれて増加するとしています。短腕、長腕、両腕のsegmental aneuploidyの分布は、それぞれ58(8.2%)、539(75.8%)、114(16%)となっています。segmental aneuploidyは1番、2番、16番染色体に最も多く発生し、19番、20番、21番染色体には最も少なくなりました。single segmental aneuploidyのみでは、1番、2番、4番染色体が最も多くなりました。double segmental aneuploidyでは、2番と8番が最も多くなりました。染色体全体の異数性を伴うsegmental aneuploidyでは、1番のsegmental aneuploidyと16番、22番の異数性が最も多くなりました。
| <35歳 | 35-37歳 | 38-40歳 | 41歳- | |
| Partial monosomy | 74 / 10.4 | 64/9 | 63/8.9 | 97 /13.6 |
| Partial trisomy | 29/4.1 | 35/4.9 | 33/4.6 | 57/8 |
| SA and WCA | 12 / 1.7 | 27 / 3.8 | 42 / 5.9 | 73 / 10.3 |
| Double partial SA | 13/1.8 | 16/2.3 | 18/2.5 | 26/3.7 |
| Partial tetrasomy | 1/0.1 | 1/0.1 | 4 /0.6 | 4 /0.6 |
| Un-balanced | 7/1 | 11/1.5 | 1/0.1 | 0/0 |
| Partial others | 0/0 | 1/0.1 | 1/0.1 | 1/0.1 |
SA: segmental aneuploidy WCA: whole chromosome aneuploidy
引用文献
③segmental aneuploidは父親年齢に関係するという報告
David Kubicek, et al. Reprod Biomed Online. 2019. DOI: 10.1016/j.rbmo.2018.11.023
論文内容
平均母親年齢32.7歳の180組215周期のtrophectoderm biopsy 967例を対象に、SNPsアレイによって解析しました。フラグメントサイズが15Mb以上の場合をsegmental aneuploidyと診断しました。
結果
染色体異常はサンプルの31%であり、27.1%に少なくとも1つの全染色体異数性、5.1%にはsegmental aneuploidが認められました。また、segmental aneuploidは父親由来の染色体に主に影響を受けること(70.4%、P<0.01)であるのに対し、全染色体異数性は母親由来の染色体に影響を受けること(90.1%、P<0.0001)が明らかになりました。
私見
segmental aneuploidについては、測定方法や基準によっても割合が変化しそうです。ただし、全体から見て5%前後というのが妥当な割合という印象をもちます。またsegmental aneuploidは父親年齢に依存している可能性は捨て切れないかなと思います。
②の報告でも母親と父親の年齢は同年代がカップルになりやすいための交絡因子の可能性についても記載されています。これからデータが洗練されていき事実関係が明らかになってくるのではないでしょうか。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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