一般不妊

2022.01.27

クロミフェン治療長期投与は子宮内膜厚で判断?(Hum Reprod. 2020)

はじめに

クロミフェンクエン酸塩(クロミッド®)治療で複数回失敗したときに薬の切り替えをするかどうかを検討した論文です。以前には、クロミッドを6回投与し妊娠成立しない場合はゴナドトロピン療法に切り替えると、出生までたどり着く割合が11%増加しますが、費用面では負担が大きいという報告がされています。では、切り替えなくても妊娠率が下がらない群はどのような症例でしょうか。一つの指標としてクロミッドの連続投与したときに子宮内膜厚で判断できないかというのが、この論文のテーマです。

ポイント

クロミッド治療6回不成功後、排卵期の子宮内膜厚が7mm以下であればゴナドトロピンへの切り替えにより出生率が22%向上します。7mm超の場合は費用対効果を考慮しクロミッド継続が推奨されています。

引用文献

E M Bordewijk, et al. Hum Reprod. 2020. DOI: 10.1093/humrep/deaa052 

論文内容

2008年12月8日~2015年12月16日にオランダの48の病院で行われたRCTです。クロミッド治療6回不成功の女性666名を、ゴナドトロピン(50-75単位/日)に変更して追加6周期を行う群(n=331)と、クロミッド(50-150mg/日)を継続して追加6周期を行う群(n=335)に無作為に割り付け、いずれもタイミング療法または人工授精を行いました。主要評価項目は、無作為化後8カ月以内に妊娠して生児(24週以降)出産することとしました。子宮内膜厚は、無作為化前の6回目のクロミッド周期の排卵期に測定された値としました。子宮内膜厚は380名の女性で得られ、そのうち190名がゴナドトロピン投与群に、190名がクロミッド投与群に割り振られました。対象は正常ゴナドトロピンの排卵障害がある平均年齢29歳前後、BMI 25前後の女性です。 

結果

6周期目の排卵期の子宮内膜厚は治療効果と関連しました(P<0.01)。スプライン解析の結果、カットオフポイントは7mmでした。6回目の排卵周期で子宮内膜厚≦7mmであった女性は162名(45%)、子宮内膜厚>7mmであった女性は218名(55%)でした。子宮内膜厚が≦7mmの女性では、79名中44名(56%)がゴナドトロピンで、クロミッドでは83名中28名(34%)が生児出産に至りました(RR 1.57、95%CI 1.13-2.19)。ゴナドトロピンを用いた場合の追加生児数あたりのICER(増分費用効果比)は9709ユーロ(95%CI:5117ユーロ~25302ユーロ)でした。子宮内膜厚>7mmの女性では、ゴナドトロピンでは111名中53名(48%)、クロミッドでは107名中52名(49%)が生児出産に至りました(RR 0.98、95%CI 0.75-1.29)。 
クロミッド治療で6回結果が出ていない場合、ゴナドトロピンに切り替えるかどうかは排卵時期の子宮内膜厚が7mmを維持できているかどうかが重要です。7mmを切っている場合はクロミッド治療に比べて8カ月以内の妊娠・出生率が22%増加するため、ゴナドトロピンへの切り替えをお勧めします。ただし、7mm以上を維持できている場合は費用対効果を考えるとクロミッドによる治療を継続することをお勧めします。 

私見

クロミッドを長期内服して排卵期の子宮内膜厚が7mm以下の女性の妊娠率が低いのは、子宮内膜の発育/受容能、子宮頸管粘液、子宮血流の障害がクロミッドの抗エストロゲン効果によって誘発されている可能性が考えられます(Gadalla MA, et al. Ultrasound Obstet Gynecol 2018)。クロミッドの抗エストロゲン作用に対しての子宮内膜の反応性により、治療法を判断するのは納得がいく説明だと思います。クロミッド6回不成功でゴナドトロピンへの切り替えを躊躇する理由として医療費の増大があげられています。最近ではレトロゾールなどの排卵誘発剤もありますので、クロミッド反復不成功の際の継続・切り替えはレトロゾールを用いて行っていくスタディーが出てきてほしいところです。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# クロミフェン、AIなど

# 子宮内膜厚、形態

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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