一般不妊

2022.02.01

高アンドロゲン性PCOS女性の排卵障害は耐糖能異常と関係する?( Hum Reprod. 2022)

はじめに

PCOSは、2型糖尿病、インスリン抵抗性、高インスリン血症などの代謝異常と関連しています。PCOSではインスリン抵抗性と関連していますが、それが高インスリン血症や血糖値異常と排卵障害の重症度とどの程度関連しているかは不明です。高アンドロゲン性PCOS女性の排卵障害の程度について、OGTTも含めた血糖・インスリン値で評価した報告ができましたのでご紹介させていただきます。

ポイント

高アンドロゲン性PCOS女性では、排卵障害が重症なほど耐糖能異常や高インスリン血症のリスクが高くなります。BMIに関わらず、耐糖能異常のスクリーニングを実施する意義があり、メトホルミン介入による排卵障害の改善や長期的な糖尿病リスクの把握が期待できます。 

引用文献

U Ezeh, et al. Hum Reprod. 2022. DOI: 10.1093/humrep/deac001

論文内容

高アンドロゲン性PCOS女性333名を対象に、排卵障害の程度と血糖値異常(1時間血糖値155mg/dlの上昇、糖尿病境界型や2型糖尿病を含む耐糖能異常、グルコースAUCまたは75gOGTTのインスリンのピーク値、インスリンAUC)の有無とを前向きに比較検討しました。 

排卵がある正常月経周期女性(n=25)、月経周期22〜24日目のプロゲステロン濃度が4ng/ml未満の未排卵ではあるが正常月経周期女性(n=33)、月経周期が35日-3ヶ月の稀発月経女性(n=150)、月経周期が3ヶ月以上の無月経女性(n=125)の高アンドロゲンPCOS女性を対象に、検査を実施しました。 

結果

無月経女性の平均BMIは、稀発月経女性、未排卵ではあるが正常月経周期女性、排卵がある正常月経周期女性よりも高くなりました。BMIを調整すると、無月経女性は稀発月経女性、未排卵ではあるが正常月経周期女性、排卵がある正常月経周期女性に比べて、1時間および2時間のインスリンとグルコース、ピークインスリン、I-AUCとG-AUCが高く、1時間血糖値155mg/dlの上昇、糖尿病境界型や2型糖尿病を含む耐糖能異常の有病率が高い傾向にありました。 
BMIを調整したロジスティック回帰では、無月経女性は稀発月経女性に比べ耐糖能異常(オッズ比:2.3、95%CI:1.3〜4.2)、排卵がある正常月経周期女性に比べて1時間血糖値の上昇(OR:10.2、CI:1.3〜79.7)が高く、未排卵ではあるが正常月経周期女性と排卵がある正常月経周期女性に合わせた群と比べて耐糖能異常(OR:1.7、CI:1.1〜2.6)と1時間血糖値の上昇(OR:1.8、CI:1.1〜2.8)共に高くなりました。 
人種/民族、年齢、ウエスト/ヒップ比、空腹時のインスリンとグルコース、および高アンドロゲン症の生化学的または臨床的測定値は、4つの月経カテゴリで類似していて関係がありませんでした。 

結論

PCOS女性にスクリーニングOGTTを実施する場合、高インスリン血症の程度を判断するために、検査中(例えば、0、1、2時間後)にインスリンレベルも評価すべきであることを示唆しています。 

私見

この見解をみていると、高アンドロゲン性PCOS女性に関してはBMI関係なく、どこかで耐糖能異常のスクリーニングをやることに意味がありそうですね。メトホルミンの介入により排卵障害を補正できる可能性もありますし、女性の長期的な耐糖能異常リスクを把握できる可能性もでてきます。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# インスリン抵抗性、HOMA

# 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

# 糖尿病

# メトホルミン

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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