治療予後・その他

2022.05.24

子宮頸がんの妊孕性温存手術を受けた女性の不妊/出産リスク(Fertil Steril. 2016)

はじめに

子宮高度異形成で円錐切除をされている女性が多いですが、すでに浸潤性子宮頸がんとなっていて、子宮頸部摘出術をしなくてはいけなかった女性の不妊原因を調べた報告をご紹介いたします。この報告には浸潤性子宮頸がんの円錐切除も含まれていますが、メインは広汎子宮頸部摘出術となっています。

ポイント

広汎子宮頸部摘出術後は不妊治療で妊娠している名が一定数います。広汎子宮頸部摘出術後の不妊原因は頸管因子です。広汎子宮頸部摘出術後の頸管因子の不妊は頸管拡張と人工授精・胚移植治療で妊娠に至ることができます。

引用文献

Enrica Bentivegna, et al. Fertil Steril. 2016. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2016.06.032

論文内容

1987年から2016年までのMEDLINE、Current Contents、PubMedの検索、および関連論文の文献から”early-stage cervical cancer” ”conservative surgery” ”conservative treatment,’ ”fertility-sparing surgery” ”trachelectomy” ”radical trachelectomy” ”laparoscop* trachelectomy” ”laparot* trachelectomy” ”robot* trachelectomy” ”abdominal trachelectomy” ”neoadjuvant chemotherapy,” ”conization” and ”cone resection” ”fertility”で検索して妊娠率、生産率、周産期合併症を比較検討したシステマティックレビューをご紹介いたします。浸潤性子宮頸がん(IB期)で妊孕性温存手術を受けた女性2,777名(944名の妊娠を含む)を対象としています。

結果

経腟的広汎子宮頸部摘出術と比較して、経腹的広汎子宮頸部摘出術を受けた患者では累積妊娠率(少なくとも一度は妊娠した割合)が有意に低くなります。妊孕性温存手術の前に術前補助化学療法を受けた患者の累積妊娠率は高くなっていました。

私見

経腹的広汎子宮頸部摘出術後の累積妊娠率が低いのは、経腟手術に比べ追跡期間が短いせいがあるかもしれないとされていますが、メインの原因は以下の二つを考えているようです。

  1. 広汎子宮頸部摘出術を受けた患者の身体的・精神的影響に関する研究によると、患者の30%が術後6ヶ月経っても「怖いこと」が理由で、夫婦生活を活発に持つ気になれないとされています。
  2. 経腹的広汎子宮頸部摘出術後に観察される妊娠率の低い理由は、癒着や膿瘍、骨盤腹膜炎の発生頻度、子宮動脈結紮に起因する可能性も考えられます。ただし、サブグループ解析では子宮動脈温存や結紮は出生率に影響を与えないことが示されています。

経腹的広汎子宮頸部摘出術を受けた患者で妊娠に至っている女性は一定頻度で不妊治療を行っているようです。通常の妊娠を希望される女性より多いことが示されています。
術後の主な不妊原因は頸管因子に関連しているとされていて、Planteらによると40%程度発生するとされています(Plante M, et al. Gynecol Oncol 2011)。要因として、[1]精子の移動を促す頸管粘液不足と腟内細菌からのバリア機構の破綻による潜在性子宮内膜炎の増加、[2]子宮頸管の物理的な狭窄が考えられています。子宮頸管狭窄は、広汎子宮頸部摘出術後に一般的な合併症であり、手術の過程(頸部切断部を結紮するか、頸管狭窄予防を行うかなど)と関連するとされていて発生率は10.5%という報告もあります(Li X, et al. Eur J Cancer 2015)。
頸管因子不妊は、子宮頸管拡張と人工授精/胚移植を状況によりうまく組み合わせると妊娠に良好な結果が得られるとされています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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