はじめに
子宮内膜症と子宮内膜炎、名前が似ているので混同されている女性が稀にいらっしゃいます。この2つは別々の疾患ですが、最近では関連があるという報告が複数されています。そのうちの一つをご紹介させていただきます。
ポイント
子宮内膜症女性の慢性子宮内膜炎有病率は38.5%と非内膜症女性14.1%より高く、子宮内膜症女性では慢性子宮内膜炎と診断される頻度が子宮内膜症でない女性に比べて2.7倍高いことが示されました。
引用文献
Ettore Cicinelli, et al. Fertil Steril. 2017. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2017.05.016
論文内容
子宮付属器摘出術を行った女性を子宮内膜症の有無により慢性子宮内膜炎の有病率を比較検討した後方視的研究です。2010年1月から2016年6月までに子宮内膜症があり子宮摘出術を受けた女性78名と子宮内膜症がなく子宮摘出を受けた女性78名に対して慢性子宮内膜炎(HE染色・CD138免疫染色で診断)の有病率を検討しました。
結果
慢性子宮内膜炎の有病率は、子宮内膜症がない女性と比較して、子宮内膜症がある女性で統計的に有意に高い結果になりました(子宮鏡検査では78名中33名、42.3% vs. 78名中12名、15.4%;組織学検査では78名中30名、38.5% vs. 78名中11名、14.1%)。慢性子宮内膜炎なし群115名と慢性子宮内膜炎あり群41名の2群に分けリスク因子を検討したところ、単変量解析でも多変量解析でも、分娩は慢性子宮内膜炎リスクの低下と関連し、子宮内膜症は慢性子宮内膜炎リスクの上昇と関連していました。
私見
子宮内膜症がある女性の慢性子宮内膜炎の有病率は高いことは、臨床を行っていると、しっくりくるところです。ただ、ここで疑問に思うのは子宮内膜症の慢性炎症の波及で慢性子宮内膜炎になっている場合、抗生剤加療が効くかどうかです。こちらは今のところ回答はありません。ただし、全く抗生剤加療を否定できない報告もあります。その一つは子宮内膜症になると月経期の子宮の腟方向への収縮運動が低下している報告です。その結果、月経血が子宮内に残り炎症を誘発したり、子宮内の上行性感染が起こりやすくなったりするからです。
何が原因・結果なのかはわかりませんが、頭の片隅にいれて治療にあたっていきたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。