はじめに
「自分の排卵を用いた胚移植の場合、黄体補充をする必要があるのでしょうか?」患者様から、よく質問される内容です。新鮮胚移植に関しては採卵時に黄体ホルモンを分泌する顆粒膜細胞を一緒にとっているので黄体機能不全になりやすいこと、採卵翌日からの黄体補充が成績に寄与することがわかっています。排卵周期凍結融解胚移植に関しては一定の見解がありませんでした。排卵周期での凍結融解胚移植後に黄体補充すると、出生率が向上するかどうか調査した報告です。
ポイント
排卵周期凍結融解胚移植後にプロゲステロン腟錠(Lutinus®、Ferring Pharmaceuticals、Malmö、Sweden)、100 mg、1日2回を補充することにより、出生率が向上します。
引用文献
K Wånggren, et al. Hum Reprod. 2022 Aug 16;deac181. doi: 10.1093/humrep/deac181.
論文内容
2つの生殖医療施設で行われた前向き無作為化比較試験です。
2013年2月から2018年3月に、500名の被験者を1:1の割合で無作為に割り付けました。主要評価項目は出生率、副次評価項目は妊娠、生化学的妊娠、臨床的妊娠、流産率、胚移植当日の血清プロゲステロン濃度と出生率との関連としました。
受精胚は2日目、3日目、5日目、6日目に凍結しました。排卵障害がない672名の女性に研究への参加を呼びかけ、そのうち500名が参加に同意し、最終的に488名がこの研究に参加しました。被験者の半数には、胚移植の日からプロゲステロン腟錠100mgを1日2回投与し、プロゲステロンの補充を行いました。残りの半数の被験者には、治療を行いませんでした。
結果
プロゲステロン補充群では、243名中83名(34.2%)が児を獲得したのに対し、対照群では245名中59名(24.1%)でした(オッズ比1.635, 95% CI 1.102-2.428, P = 0.017)。着床率はそれぞれ243名中104名(42.8%)、245名中83名(33.9%)、臨床妊娠数はそれぞれ243名中91名(37.4%)、245名中70名(28.6%)(オッズ比 1.497、95% CI 1.024-2.188、P=0.043)でした。生化学的妊娠や流産率に差はありませんでした。胚移植当日の血清プロゲステロン濃度と出生率との関連はありませんでした。
私見
排卵周期凍結融解胚移植の黄体補充に否定的な大規模レトロスペクティブ研究もありますが、最近のメタアナリシスでは肯定的な意見が多いです。あとはいつからの黄体補充がよいのかですね。今回の報告ではday3以降の移植で成績が向上することは間違いなさそうです。
最近の2本のメタアナリシス
Aeran Seol, et al. Clin Exp Reprod Med. 2020 Jun;47(2):147-152. doi: 10.5653/cerm.2019.03132.
・hCG投与では生殖医療成績に寄与せず。
・プロゲステロン腟剤は出生率にポジティブに影響したが妊娠率には影響せず。
Hum Reprod Update. 2021 Jun 22;27(4):643-650. doi: 10.1093/humupd/dmab011.
Yossi Mizrachi, et al.
・hCG投与では生殖医療成績に寄与せず。
・プロゲステロン腟剤は出生率・妊娠率にポジティブに影響。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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