はじめに
妊娠前のビタミンD濃度と流産リスクの関連は十分に明らかになっていません。現在のところ、自己妊活での妊娠する力には影響しないこと、流産率は妊娠前ビタミンD濃度が極端に低くなければ強くは影響しないと考えられます。ただし、流産経験のある女性やビタミンD濃度が非常に低い女性に関しては、サプリメントなどでビタミンDを摂取することが望ましいと考えます。
ポイント
妊娠前のビタミンD濃度が30ng/ml以上あれば流産リスクは低減される可能性があります。特に流産経験のある方は妊娠前からビタミンDを十分に摂取しておくことが重要です。一般的な妊活中の方も、ビタミンD濃度の測定とサプリメント補充を検討する価値があります。
引用文献
Moller UK, et al. Eur J Clin Nutr 2012; 66:862–868. DOI: 10.1038/ejcn.2012.18
論文内容
妊娠前ビタミンD濃度は流産率に影響しない報告 その1
白人女性153名(平均29歳: 25-35歳)を対象とした追跡調査。
妊娠前25(OH)Dの中央値は59 nmol/l(23.6 ng/ml)であり、登録された女性のうち63%は6ヶ月以内に妊娠が成立しました。女性の31%は25(OH)Dが50 nmol/l(20 ng/ml)未満であり、12%は80 nmol/l(32ng/ml)以上でした。
結果
25(OH)Dは全体として妊娠率や流産率と関係しませんでしたが、妊娠10-22週に流産した女性3名は、流産しなかった女性と比較して、妊娠初期の25(OH)Dが低くなっていました(14ng/ml vs. 26ng/ml、P = 0.03)。
引用文献
A Subramanian, et al. Hum Reprod, 2022. 37(10), 2465–2473. DOI: 10.1093/humrep/deac155
論文内容
妊娠前ビタミンD濃度は流産率に影響しない報告 その2
2008年から2015年の間に自然妊娠を試み、妊娠に至った362名の女性(33±3.0歳)を対象とした前向き研究。
登録時に自然妊娠を試みてから3カ月以内であり、30〜44歳の参加者を対象としています。妊娠前の月経中に血液サンプルを採取し、25-ヒドロキシビタミンDを測定しました。
結果
平均25(OH)Dは、人種がアフリカ系アメリカ人、およびBMIが高い名ほど低い傾向がありました。女性年齢、人種、BMI、教育、運動、アルコールおよびカフェイン摂取量を調整した後、25(OH)D 30〜40ng/mlである妊娠女性と比較して、25(OH)D値<30ng/mlの妊娠女性の流産に対するハザード比(HR)・95%CIは1.10; 95%CI: 0.62-1.91でした。
引用文献
Mumford SL, et al. Lancet Diabetes Endocrinol 2018; 6:725–732. DOI: 10.1016/S2213-8587(18)30153-0
論文内容
妊娠前ビタミンD濃度は流産率に影響する報告
無作為化二重盲検プラセボ対照EAGeR試験による前向きコホートの二次解析。
過去に1〜2回の流産経験がある18〜40歳の女性1191名を対象とし最大6周期観察しています。25(OH)Dは妊娠前と妊娠8週目に測定しました。
結果
女性約半数の47%は十分な濃度(≧75nmol/L:30 ng/ml)でした。妊娠前25(OH)Dが十分な女性は、不十分な女性よりも臨床妊娠(aRR 1.10; 95%CI 1.01-1.20)および出生率(aRR 1.15; 95% CI 1.02-1.29)が高い傾向にありました。妊娠8週目25(OH)Dより妊娠前25(OH)Dが十分である方が流産リスク軽減と関連していました。妊娠前25(OH)Dは妊娠しやすさとの関連はありませんでした(aFOR 1.13; 95%CI 0.95-1.34)。
私見
流産は、誰しも経験したくない妊娠転機です。サプリメントを適切にとり、少しでもリスクが軽減できる可能性があるなら提示してあげるほうが患者様自身精神的な負担が軽減するかもしれません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。