体外受精

2022.10.19

胚移植手技の注意点(Fertil Steril. 2022)

はじめに

胚移植は施設間の成績を左右する重要な手技です。良い受精胚を準備できても胚移植手技が不安定だと成績につながりません。私自身が、体外受精を始めてから、安定したなと感じるまで一番時間がかかった手技です。 当院の医師は月単位で成績をモニターして安定した治療成績を担保できる環境を準備するよう努めています。こちらに関するレビューをご紹介させていただきます。胚移植は経験数ではなく、ひとつひとつ理詰めで行う質重視で行っていくべきだと感じています。米国生殖医学会の胚移植に対するガイドライン2017を基にアップデートされています。

ポイント

胚移植は体外受精における最重要手技であり、医師間での成績差が報告されています。超音波ガイド下使用、軟性カテーテルの選択、適切な移植位置など各因子について、ASRM 2022ガイドラインをもとに解説します。

引用文献

Yossi Mizrachi, et al. Fertil Steril. 2022 Sep 30;S0015-0282(22)01380-2. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.08.858.

論文内容

※腹部超音波ガイド下胚移植は出生率を向上させます。(グレードA)
※経腟超音波ガイド下胚移植は腹部超音波ガイド下と同様の成績であり、超音波による不快感が腹部超音波より軽減されます。(グレードA)
※頸管粘液の胚移植前の除去は出生率が向上する可能性があります。(グレードB)
※柔らかいETカテーテルを使用する方が胚移植時の出生率が高くなります。(グレードA)
※外筒カテーテルは内子宮口をこえて深くまで挿入しないことを推奨します。(グレードC)
※胚の移植する位置は子宮底部より10mm以上離れた位置とすることを推奨します。(グレードB)
※胚移植の注入速度は十分なエビデンスはありません。(グレードC)
※胚移植のローディングから移植終了までの時間は、負の影響があるか影響しないかの相反するエビデンスがあります。(グレードC)
※カテーテル抜去時に回転して抜くかどうか、負の影響があるか影響しないかの相反するエビデンスがあります。(グレードC)
※胚移植後、すぐ抜いても60〜120秒おいて抜いても成績には影響を与えません。(グレードB)

胚移植する医師の技術

Karandeらは1999年に1,850周期の胚移植をレビューし、11名の医師間の妊娠率を比較検討したところ、臨床妊娠率は13.2%〜37.4%とばらつきがありました。同様の報告をHearns-Stokesらは2000年に10名の医師で行い、臨床妊娠率は17%〜54%とばらつきが生じました。これらは後方視的研究でした。 2006年、Angeliniらが前向き研究として2名の医師での485件の新鮮胚移植成績を検討したところ、臨床妊娠率20.5% vs. 36.1%と差がありました。条件を揃えて実施された初めての研究でした。 2009年、Yaoらは、2種類のカテーテルと3人の医師のどちらが胚移植の臨床成績に影響を与えるか1,446件の胚移植にてRCTを行ったところ、カテーテルでの成績に差がありませんでしたが、医師間では成績に差がありました。 2020年のCirilloらは、20年間19,824件の32名の胚移植医師間の成績を比較しました。エコーガイド下で外筒カテーテルを使っていたにもかかわらず、移植成績に医師間で差がでました。平均より成績が悪い医師は移植回数や経験年数によって成績が改善することは少なく、しっかりと技術指導が行われていないとずっと成績が悪い状態が続くことがわかりました。

医師の経験年数

胚移植の成績が医師間によって異なるのは間違いありませんが、医師の経験年数によるのでしょうか。胚移植は最終的な重要な手技であるため、患者様も若い医師に胚移植されることを望まず、若い医師は胚移植できる機会が少ないと2020年にMcQueenらは報告しています。しかし、McQueenらの報告でも、2022年にMillerらが11年間のレビューで行った報告でも、医師の経験年数では移植成績に差はありませんでした。つまり、胚移植成績が医師間でばらつくのは経験年数ではなく他の要因であり、しっかりと指導され成績をフィードバックできる環境にあるかどうかが大切だと考えています。

超音波ガイド下胚移植について

超音波ガイドで胚移植を実施することは、子宮内膜へのダメージを減らし、子宮腔内に胚を正確に配置する目的で広く行われています。2016年のコクランレビューでは、腹部超音波ガイド下胚移植と超音波を用いない胚移植を比較した21のRCT(n = 6,218)のメタアナリシスを発表し、出生率/継続妊娠率、臨床妊娠率ともに超音波ガイド下胚移植が好ましい結果となりました。 経腟超音波ガイド下か腹部超音波ガイド下かは過去のRCTでは差がなく、尿貯留が不要な点・疼痛の点では経腟超音波ガイド下が好ましいという結果になっています。クリニックの成績が安定している方が実施されるべきだと考えます。

子宮頸管粘液の除去

子宮頸管粘液があると、胚排出を阻害したり、粘性により胚を引き戻したりして適切な場所に胚を配置できない可能性がありますし、頸管から子宮内に異常細菌を押し込んでしまう可能性があります。しかし、頸管粘液を除去すると、子宮収縮や子宮頸管出血が刺激となり着床率が低下することも懸念されます。8件のRCTのメタアナリシスでは子宮頸管粘液の除去が臨床成績に影響を与えないとされていますが、報告によって頸管粘液除去の方法は異なり、頸管粘液除去の実施の判断は施設ごとに行われています。

カテーテルの種類

柔らかいカテーテルが好ましいとされていますが、現在使用されている軟性カテーテルの種類間では生殖医療成績に差を認めていません。

外筒カテーテル使用の有無

2007年のAbdelmassihらは外筒カテーテルを設置して胚移植を行ったほうが、内子宮口を通過する程度まで軟性カテーテルを誘導する方法より成績が高いと報告していますが、外筒カテーテルの使用有無は施設ごと・患者ごとに判断されています。

胚の移植する位置

カテーテルの先端が子宮底に触れると子宮収縮を誘発する可能性があるため、一般的に避けるようにしています。過去の報告では、(1)RCT:子宮底から10mm、15mm、20mmでは10mmでの胚移植成績が不良、(2)RCT:子宮底から10mm未満は10〜15mmと比較し胚移植成績が不良、(3)後方視的研究:10mm未満での胚移植成績が不良、としています。他の方法として子宮内腔の長さを測定して移植する方法があります。基本的には子宮底部に当てずに子宮内腔の中央付近に胚移植するのが好ましいとされています。

胚移植の注入速度

胚移植の注入速度に関する検討では、現時点で有益な報告がありません。ただし、マウス胚を用いた注入速度の検討では、急速注入により異所性妊娠リスクの上昇および胚のアポトーシスの誘導が起こることがわかっています。

胚移植の処置時間の長さ

胚のローディングから胚移植までの時間が新鮮胚移植で120秒を超えると着床率・妊娠率が低下するとされており、胚がインキュベーターから出ている時間が長いことが原因とされていました。しかし、凍結融解胚移植では胚移植の処置時間の長さは生殖医療成績に影響を与えない(Lee M.S., et al. 2018)とされており、最近の前向きコホート研究でも影響がない(Nouri K, et al. 2015)とされています。

カテーテル抜去時に回転して抜くかどうか

1件のRCT(Yayla Abide C. et al. 2018)で、カテーテル抜去時に回転して抜くと臨床妊娠率が高くなったという報告がありますが、この論文でも継続妊娠率には差を見出せていません。その後の大規模RCTでは臨床妊娠率に差を認めることはできませんでした(Gurbuz A.S., et al. 2021)。こちらも施設ごとに安定する方法を見つけていくのが良いかと思います。

カテーテル抜去のタイミング

胚移植後すぐにカテーテルを抜くのと少し時間をおいて抜くのとどちらがよいかですが、30秒おいた場合(Martínez F., et al. 2001)、60秒おいた場合(Sroga J.M., et al. 2010)、いずれもすぐ抜いた場合と妊娠率に差を認めませんでした。

私見

胚移植は医師・胚培養士ともに毎月成績を管理しているほど些細な違いが成績に響く手技です。
当院では、患者様に胚移植動画をみてもらいながら実施しています。

こちらもご覧くださいね。

〜関連コラム〜

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胚移植(ET)

# 子宮内膜厚、形態

# 新鮮胚移植

# 凍結融解胚移植

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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