はじめに
人工授精を実施する場合、卵胞サイズが何mmくらいで人工授精を決定すべきか悩むことがあります。クロミフェンの至適卵胞サイズが数多く研究されてきていますが、レトロゾールの至適卵胞サイズの報告はほぼありません。今回レトロゾールHMG法での人工授精において、卵胞サイズと妊娠率の関係を示した報告が出てきましたので、ご紹介させていただきます。このグループは、PPOS法を報告したグループです。
ポイント
レトロゾールHMG卵巣刺激でhCGトリガーを行う場合、至適ドミナント卵胞サイズは16.1〜18.0mmでした。LHサージが出た場合、ドミナント卵胞サイズは14.1〜18.0mmであっても妊娠率が担保されるため、人工授精を中止する必要がないことがわかりました。また、人工授精が成功しやすい群は、性機能障害>排卵障害≒軽度男性因子>原因不明です。これらを踏まえて患者様には情報提供していくことが必要です。
引用文献
Li Chen, et al. Reprod Biomed Online. 2022. DOI: 10.1016/j.rbmo.2022.11.003
論文内容
2010年1月から2021年5月までの3,797のレトロゾールHMG卵巣刺激を用いた人工授精を対象としています。すべてのサイクルを、hCGトリガー群(トリガー日LH≦15mIU/ml)と自己LHサージ群(トリガー日LH>15mIU/ml)の2群に分けました。この2群は、卵胞の直径に基づいてより小さなグループに細分化されました。主要評価項目は臨床妊娠率としました。他のリスク因子を調べるために、ロジスティック回帰分析を行いました。
結果
hCGトリガー群では、臨床妊娠率は卵胞径16.1-18.0mm群が20.8%、18.1-20.0mm群が14.9%、20.1-22.0mm群が11.8%でした(P <0.001)。自己LHサージ群では、臨床妊娠率は卵胞径14.1-16.0mm群が20.1-22.0mm群より高くなりました(aOR: 0.533, 95% CI: 0.308-0.923, P = 0.025)。発育卵胞が2つある女性は、1つの女性に比べ、臨床妊娠率が2.569倍高くなりました(aOR: 2.569, 95% CI: 1.258-5.246, P = 0.010)。不妊症期間は両群に共通したリスク因子となっていました。
私見
この論文の条件設定はわかりやすい設定となっています。
卵胞期よりレトロゾール2.5mg/day 5日内服、day10でhMG75単位筋注します。そこからは1日おきに卵胞サイズを測定しながら下記クライテリアで人工授精日程を決定しています。
- 10mIU/mL<LH≦15 mIU/mL 卵胞サイズ16mm以上⇨hCG5,000単位
- LH≦10 mIU/mL 卵胞サイズ18mm以上⇨hCG5,000単位
- 15mIU/mL<LH 卵胞サイズ14mm以上⇨トリガーなし
そのうえで24時間以内の人工授精としています。総運動精子数は1,000万以上の軽度男性因子以上の症例に限って行っています。女性の平均年齢は31歳前後です。
人工授精の最適卵胞径は18〜22mmの間で議論が分かれています。クロミッドは薬剤の抗エストロゲン作用によりレトロゾールより大きいサイズの方がよいのかもしれませんね。
●Jacob Farhi, et al. Gynecol Endocrinol. 2010. Jul;26(7):546-8. doi: 10.3109/09513591003686312.
PCOS患者においてクロミッドIUIは卵胞サイズ18-22mmが17mm以下、23mm、24mmより妊娠率が高い。
●Chaitali Ghosh, et al. Fertil Steril. 2003. Aug;80(2):328-35. doi: 10.1016/s0015-0282(03)00601-0.
クロミッドもしくはゴナドトロピンIUIは卵胞サイズ20mm以上が15-19.9mmより妊娠率が低い。
●Kolbe L Hancock, et al. Fertil Steril. 2021. Apr;115(4):984-990. doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.10.026.
クロミッドIUIは卵胞サイズ21.1-22.0mm、22.0mm以上が19.1-20.0mmに比べて妊娠率が高い。一番高いのは21.1-22.0mm。
●Mohammad A Maher, et al. Observational Study Int J Gynaecol Obstet. 2017. Nov;139(2):174-179. doi: 10.1002/ijgo.12291.
ゴナドトロピンIUIは卵胞サイズ19-20mmが17-18mm、18-19mm、20mm以上より妊娠率が高い。
●Einat Shalom-Paz, et al. Gynecol Endocrinol. 2014 Feb;30(2):107-10. doi: 10.3109/09513590.2013.860126.
クロミッドIUIは卵胞サイズ15mm以上の場合、妊娠群は20.4±1.2mmであり非妊娠群が18.8±1.9mmであった。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。