はじめに
生殖医療の世界的コンセンサスは、新鮮胚移植と凍結融解胚移植の累積妊娠率・出生率は同等とされています。しかし、実際の臨床現場では凍結融解胚移植の妊娠成績が良いような印象を受けることがあります。今回、中国で行われた凍結/新鮮単一胚盤胞移植のRCTをご紹介いたします。
ポイント
若年の排卵障害がない女性において、凍結単一胚盤胞移植は新鮮単一胚盤胞移植よりも単胎出生率が高くなりました。中等度/重度OHSS、流産率、pre-eclampsiaを除く産科合併症および新生児胎児奇形率は差がありませんでした。凍結単一胚盤胞移植は新鮮単一胚盤胞移植に比べ、出生体重は高くLGAリスクも高くなりました。
引用文献
Daimin Wei, et al. Lancet. 2019 Mar 30;393(10178):1310-1318. doi: 10.1016/S0140-6736(18)32843-5.
論文内容
中国21大学生殖医療施設で実施された多施設非盲検無作為化対照試験です。
2016年8月1日から2017年6月3日まで、体外受精の初回サイクルを受ける月経周期が21-35日で整である女性1,650名が登録されました。無作為化はコンピュータで作成されました。凍結胚盤胞移植に割り付けられた女性については、すべての胚盤胞を凍結しました。主要評価項目は単胎出生率としました。解析はintention to treatで行っています。
結果
825名の女性が各群に割り付けられました。凍結単一胚盤胞移植は新鮮単一胚盤胞移植よりも単胎出生率が高くなりました(凍結単一胚盤胞移植: 416名[50%], 新鮮単一胚盤胞移植: 329名[40%];RR 1.26、95% CI 1.14-1.41、p<0.0001)。中等度/重度OHSS(凍結単一胚盤胞移植: 4/825名[0.5%],新鮮単一胚盤胞移植: 9/825名[1.1%],p=0.16)、流産率(凍結単一胚盤胞移植: 134/583例[23.0%],新鮮単一胚盤胞移植: 124/481名[25.8%])、pre-eclampsiaを除く産科合併症および新生児胎児奇形率は両群で差がありませんでした。凍結単一胚盤胞移植はpre-eclampsia(子癇前症)のリスクが高かった(凍結単一胚盤胞移植: 16/512名[3.1%], 新鮮単一胚盤胞移植: 4/401名[1.0%];RR 3.13, 95% CI 1.06-9.30, p=0.029)。
私見
この研究はGnRHアンタゴニスト法(28.8歳 卵管因子50% > 男性因子20% total FSH 1600単位相当で14個程度の回収卵)のintention to treat解析です。
臨床現場で治療を行っている立場からすると、しっくりくる結果となっています。ただし、コクランレビューでは生殖医療ガイドラインに示す通り、新鮮胚移植と凍結融解胚移植には差がありません。これらは対象となる患者特性(PCOSや人種差)、移植胚数、移植胚ステージなども影響しているのかもしれませんね。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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