プレコンセプションケア

2023.03.18

男性のプレコンセプションケア②~父親の健康状態が母体の健康に影響を与えることについて(論文紹介)

今回ご紹介する論文

健康な母親における妊娠前の父親の健康状態と母親の不良な転帰との関連性

Association of preconception paternal health and adverse maternal outcomes among healthy mothers.

Murugappan G, 他. Am J Obstet Gynecol MFM. 2021 Sep;3(5):100384. doi: 10.1016/j.ajogmf.2021.100384. PMID: 33895399.

父親の健康状態が悪いと、母体や児に悪影響がでることが示されてきています。母親の年齢に関わらず流産のリスクとなったり、BMIが高いと妊娠まで時間がかかったりすることや、男性の年齢が早産の原因となったり、Apgar scoreを低くしたりすること、妊娠糖尿病が増えたりすることといった様々な報告があります。また、以前のブログでも父親の併存疾患が、早産、低出生体重、NICUに入るリスク、妊娠高血圧のリスクと関連することをご紹介しました。
この研究では、もともと健康な女性が妊娠した場合の周産期のリスクに対する男性の健康状態の影響を検討しています。

研究の要旨

背景としては、母体における周産期合併症は、従来から世界的な懸念事項となっています。父親の妊娠前の健康は妊娠の転帰に重要な役割を果たす可能性がありますが、母親の健康に比べてあまり注目されていないということがあります。

この研究の目的は、健康な母親における妊娠前の父親の健康と母親が不良な転帰をたどるリスクとの関連を検討することです。

研究デザインは以下のようになっています。IBM Marketscan調査データベースというデータベースに記録された20歳から45歳の健康な女性の2009年から2016年までの生児出産例を対象とし、後ろ向きに解析しました。出生児は家族に割り振られたIDを使用して母親と父親のペアに紐付けされました。妊娠前の父親の健康状態は、メタボリックシンドロームの構成要素の個数および一般的な慢性疾患の診断数(高血圧、糖尿病、肥満、高脂血症、慢性閉塞性肺疾患、がん、うつ病)を用いて評価しました。母体因子と父体因子の交絡の可能性を避けるため、メタボリックシンドロームの構成要素を持つ女性は除外されました。評価対象となった母体の不良な転帰は、(1)癒着胎盤、前置胎盤、胎盤剥離を含む異常胎盤、(2)子癇を含む重度の特徴を有するまたは有しない妊娠高血圧腎症、(3)出産時から産後6週間における生命にかかわる合併症(CDCの指標で決定される重度の母体の病態)、などでした。妊娠前の父親の健康と各母親の転帰との間の傾向が解析されました。また、研究期間中に複数回の出産をした母親を考慮し、母親の年齢、父親の年齢、出生地域、出生年、母親の喫煙、および年間の平均外来受診回数を調整して、父親の健康と母親の転帰との独立した関連性を解析しました。

結果は次のようになりました。健康な母親による669,256件の出産において、すべての不良な母体の転帰と、メタボリックシンドローム診断数または慢性疾患診断数のいずれかで決定した妊娠前の父親の悪化した健康状態との間に有意な相関が認められました(P<0.001)。重症とならなかった妊娠高血圧腎症のオッズは用量依存的に上昇し、男性パートナーがメタボリックシンドロームの診断基準の構成要素を2つ以上もっていた女性では、男性パートナーがメタボリックシンドロームの診断の構成要素を一つも持っていなかった女性よりも21%高くなっていました(95%信頼区間、1.17~1.26)。重症となった妊娠高血圧腎症および子癇のオッズは、用量依存的に上昇し、男性パートナーがメタボリックシンドロームの診断基準の構成要素を持っていない女性よりも、男性パートナーがメタボリックシンドロームと診断されている女性で、19%高くなっていました(95%信頼区間、1.09-1.30)。母体に重篤な病変が発生するオッズは、男性パートナーがメタボリックシンドロームと診断された女性では、男性パートナーがメタボリックシンドロームの診断とならなかった女性よりも9%高かい結果でした(95%信頼区間、1.002-1.19)。胎盤異常のオッズは、両群間で同程度でした(調整オッズ比、0.96;95%信頼区間、0.89-1.03)。

結論としては以下のようになりました。健康な母親において、妊娠前の父親の健康状態は、妊娠高血圧腎症子癇前症のオッズ上昇と有意に関連し、母親の重篤な病変が発生するリスク上昇とは弱く関連していることが報告されました。これらの知見は、産科的合併症のリスクが基本的に低い健康な女性において、父親由来の因子が母体の周産期合併症の発生に重要な役割を果たす可能性を示唆しています。

*重症な母体の合併症の指標に含まれるもの:
急性心筋梗塞、動脈瘤、急性腎不全、成人呼吸窮迫症候群、羊水塞栓症、心停止・心室細動、カウンターショック、播種性血管内凝固症候群、子癇、手術や処置中の心不全や停止、産婦の脳血管障害、肺水腫/急性心不全、重篤な麻酔の合併症、敗血症、ショック、クライシスを伴う鎌状赤血球症、空気・血栓性塞栓症、輸血、子宮摘出術、一時的な気管切開、人工呼吸

筆者の意見

母体の生命の関わるような周産期の合併症が発生した場合その女性の7-8割は妊娠前に合併症もなく健康であったということが報告されています。重篤な転帰をたどる女性は年々増加しており、これは主に女性の高齢化や併存疾患の増加によるもと考えられています。今回の検討でも女性が若年の場合は男性の影響は少ない結果でしたが、健康な女性のみを対象としたことで、女性の併存疾患の影響を排除して、男性の健康状態の影響をうまく導き出しています。つまり、メタボや高血圧などの慢性疾患をもっている男性パートナーを持つと、その女性パートナーは命のリスクが男性疾患のために上がってしまうと言うことになります。このような結果となる機序については不明ですが、著者らはやはりエピジェネティックなものを要因にあげています。私も同様の意見です。
この研究の結果から、妊娠前のカウンセリングにおいては、家族全体の健康を考え、これに影響を与える父親の健康維持の役割についても十分に認識する必要があるということが確認されたと思います。くりかえしお伝えしていますが、幸せな家庭を作るにはまず自分の健康管理から行うことが重要で、健康獲得により、女性パートナーの安全な妊娠出産につながるということになることを知っておいて欲しいと思います。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

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