はじめに
凍結融解胚移植を行った際の胚移植中止率は排卵周期だとホルモン調整周期に比べて高いかどうかについて、意外と適した論文がありません。コクランレビュー2020 (Demián Glujovsky, et al. doi: 10.1002/14651858.CD006359.pub3.)analysis 2,4 comparison2: programmed cycle versus natural cycle, outcome 4: cycle cancellation rateに一部掲載されています。排卵周期の方がホルモン調整周期よりキャンセル率が低いという結論に達しています(OR 0.60、95%CI 0.44~0.82 、734人、一つの研究、中質の証拠)。しかし、この論文は採卵実施を分母としたRCTであるため、有効胚なしも含まれた解釈となっています。
ポイント
排卵周期凍結融解胚移植で治療キャンセルになる理由は、トリガー前に排卵、発育卵胞なし、不十分な内膜厚、不規則な性器出血、premature LH surgeなど様々ですが7-10%となっています。
引用文献
- Demián Glujovsky, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2020. doi: 10.1002/14651858.CD006359.pub3
- Groenewoud ER, et al. Human Reproduction (Oxford, England) 2016
- Agha-Hosseini M, et al. Turkish Journal of Obstetrics and Gynecology 2018
- Child T, et al. Fertility and Sterility 2013
- Greco E, et al. Journal of Assisted Reproduction and Genetics 2016
- Sheikhi O, et al. JBRA Assisted Reproduction 2018
論文内容
コクランレビュー2020の根拠となったのはGroenewoud ERの報告です。
Groenewoud ER, et al. Human Reproduction (Oxford, England) 2016.
排卵周期495名で解析できたのは394名(解析できない理由: 有効胚なし 68名、トリガー前に排卵 21名、発育卵胞なし 6名、不十分な内膜厚 3名、ラボ側の問題 2名、不規則な性器出血 1名)、ホルモン調整周期464名で解析できたのは340名(解析できない理由: 有効胚なし 72名、ホルモン調整周期中の排卵 7名、副作用 5名、不十分な内膜厚 37名、内膜異常 2名、理由不明1名)
そのほかにも排卵周期とホルモン調整周期のキャンセル率を比較したRCTでは下記のような結果となっています。
Agha-Hosseini M,et al. Turkish Journal of Obstetrics and Gynecology 2018
排卵周期85名は全て解析、ホルモン調整周期85名中2名は個人的な理由、1名は原因不明で治療キャンセルとなり解析できていません。
Child T, et al. Fertility and Sterility 2013.
排卵周期80名で解析できたのは72名、ホルモン調整周期79名で解析できたのは73名
Greco E, et al. Journal of Assisted Reproduction and Genetics 2016.
排卵周期118名で解析できたのは109名(解析できない理由: premature LH surge 6名、不十分な内膜厚 3名)、ホルモン調整周期118名で解析できたのは113名(解析できない理由: 不十分な内膜厚 5名)
Sheikhi O, et al. JBRA Assisted Reproduction 2018.
排卵周期61名で解析できたのは57名(解析できない理由: 排卵誘発の頭痛 1名、不十分な内膜厚 3名)、ホルモン調整周期62名で解析できたのは59名(解析できない理由: 不十分な内膜厚 2名、性器出血 1名)
私見
凍結融解胚移植において、time to pregnancyを意識する中でキャンセル率を減らす努力をすべきだと感じています。しかし、何よりもベストコンディションでトライすることが重要であり、そのためには患者への事前説明が極めて重要です。キャンセルとなる可能性のある理由やリスクを十分に説明し、患者の理解と協力を得ることで、最適なタイミングでの胚移植を実現できると考えています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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