不育症

2023.06.09

反復流産患者の流産絨毛染色体結果(J Assist Reprod Genet. 2023)

はじめに

反復流産患者コホートにおける流産絨毛染色体結果を評価し、患者背景との関連性を調査した報告をご紹介いたします。 

ポイント

染色体異常は反復流産患者の流産原因の56%でした。流産絨毛の染色体数的異常は、母体年齢が高い、流産した妊娠週数が早い、流産既往が少ない、女児妊娠である場合に多い傾向にありました。 

引用文献

Dan Zhu, et al. J Assist Reprod Genet. 2023 Jun 1. doi: 10.1007/s10815-023-02816-w. 

論文内容

2016年2月から2020年5月に、中国の産婦人科施設において反復流産患者の流産絨毛検体を一塩基多型(SNP)アレイにて解析したレトロスペクティブコホート研究です。反復流産は妊娠24週までの2回以上の流産と定義しています。 

結果

2016年2月から2020年5月にかけて、反復流産患者の流産絨毛検体2,383例(2,602例から1例は母親のDNAによる汚染、218例は妊娠年齢の情報不足により除外)を解析しています。 
患者背景は以下のとおりです。 

過去妊娠回数は、2回が1,215例、3回が739例、≧4回が429例。流産時の平均週数8.66±1.91週、BMI22.00±2.89。胎児性別は男児1,130人、女児1,200人でした。妊娠方法は自然妊娠1,513名(平均年齢:31.81歳)、IVF妊娠205名(34.88歳)、ICSI妊娠27人(36.11歳)。 
SNPsアレイ結果で染色体異常を検出したのは56.9%(1355/2383)でした。92.1%(1248/1355)数的異常、7.5%(102/1355)構造異常、0.4%(5/1355)LOH(loss of heterozygosity:ヘテロ接合性の消失)でした。数的異常リスクは、母体年齢35歳以上(OR, 1.71; 95% CI, 1.41-2.07)、流産時の妊娠週数12週以下(OR, 2.78; 95% CI, 1.79-4.33)、過去の流産回数が少ない女性(2回:OR, 2.32; 95% CI, 1.84-2.94; 3回:OR, 1.59; 95% CI, 1.23-2.05)、女胎妊娠(OR, 1.37; 95% CI, 1.15-1.62)で増加しました。染色体異常をくりかえすOR 4.00(95%CI:1.87-8.58、P<0.001)、aOR 5.05(95%CI:2.00-12.72、P=0.001)でした。妊娠方法は数的異常発生率との関連はありませんでした。構造異常は患者背景との関連は見出せませんでした。 

私見

流産絨毛染色体の数的異常割合の増加は過去にも報告されています。 

母体年齢が高い女性 
Grande M, et al. Hum Reprod. 2012;27(10):3109–17. 

流産した妊娠週数が早い 
Hardy K, et al. Am J Med Genet A. 2016;170(10):2671–80. 
Qu S, et al. J Matern Fetal Neonatal Med. 2019;32(1):1–10. 

染色体異常を伴う過去の流産既往がある 
Nikitina TV, et al. J Assist Reprod Genet. 2020;37(3):517–25. 
Munne S, et al. Prenat Diagn. 2004;24(8):638–43. 

また、女児妊娠が反復流産検体で多いことが過去の報告でも認められますが、具体的なメカニズムはまだわかっていないようです。 
Del Fabro A, et al. Int J Womens Health. 2011;3:213–7. 
Cheng HH, et al. J Assist Reprod Genet. 2014;31(8):1059–64. 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 流産、死産

# 染色体

# 不育症(RPL)

# 年齢素因

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

反復流産患者における生化学的流産の臨床的意義:正倍数性胚移植による検討(Reprod Med Biol. 2025)

2025.10.10

RhD陰性妊婦の妊娠初期流産・中絶に対する取り扱い(Am J Obstet Gynecol. 2024)

2024.09.20

化学流産は自己卵子でも卵子提供でも変わらない(Hum Reprod. 2024)

2024.07.11

妊娠中の失業は流産・死産リスク上昇と影響(Hum Reprod. 2023) 

2023.10.11

反復流産既往女性は妊娠時に胎盤異常をおこしやすい(Fertil Steril. 2023)

2023.09.13

不育症の人気記事

妊娠中の失業は流産・死産リスク上昇と影響(Hum Reprod. 2023) 

反復流産既往女性は妊娠時に胎盤異常をおこしやすい(Fertil Steril. 2023)

不育症に対する免疫グロブリン投与の有効性(J Reprod Immunol. 2025)

NK細胞異常を有する反復妊娠不成立患者における免疫ブロブリン・イントラリピッド比較研究(当院関連論文)

原因不明不育症患者に対する着床前遺伝子検査(PGT-A)の有用性(Fertil Steril. 2025)

先天性凝固素因異常がある反復流産患者にヘパリン治療は無効(Lancet. 2023)

今月の人気記事

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

肥満PCOS女性における単一正倍数性胚盤胞移植の妊娠転帰(Fertil Steril. 2025)

2025.10.01

子宮内膜厚と出生率の関連:米国SARTレジストリ研究(Fertil Steril. 2025)

2025.10.03

男性不妊症とExome sequencing (Eur Urol. 2025)

2025.10.04

ICSI周期における未熟卵割合と胚発生・出生率の関連(Hum Reprod. 2025)

2025.09.30