治療予後・その他

2024.03.08

仕事上弱い立場は妊孕性に影響を与える(Fertil Steril. 2024)

はじめに

仕事上弱い立場(low job control)は、職業ストレスの原因となることがわかっています。Job controlは自身で仕事を進められる権限(decision authority)、仕事を自分の技量で行い切れるかどうか(skill discretion)によります。low job controlは短命、心血管系疾患、高血圧などとの関連が報告されています。メカニズムとして生物学的には免疫・炎症マーカーの調節異常、行動学的には対処関連反応(アルコール消費、睡眠など)が考えられています。 
仕事特有のストレスや心理社会的労働条件が、直接妊孕性に影響を与えるかどうかを調査した報告がありませんでした。PRESTO研究を用いて調査した報告をご紹介いたします。

ポイント

仕事に対するコントロールの低さは妊孕性に影響を与えそうです。 

引用文献

Erika L Sabbath, et al. Fertil Steril. 2024 Mar;121(3):497-505.  doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.11.022. 

論文内容

米国とカナダで妊娠を希望するカップルのインターネットベースの妊娠前コホート研究であるPregnancy Study Onlineデータを使用しました。参加者は21~45歳で、登録時(2018~2022年)に妊活周期6周期未満で妊娠していないカップルを対象としました。ベースラインの自己申告職業と業種を、国立労働安全衛生研究所の産業・職業コンピュータ化コーディングシステムの標準化職業コードと照合し、コードを仕事の独立性と意思決定の自由に関するO*NET職業曝露スコアにリンクさせることで、職業統制を評価しました。
評価項目は妊孕性としました。ベースライン時および8週間ごとに、最長12ヵ月間、または妊娠が報告されるまでのいずれか早いほうの期間、質問票に記入しました。 

結果

3,110名において、仕事の自立度が低いほど妊孕性は低下しました。最も仕事の自立度が高い第4四分位群(最高)と比較して、第1四分位群(最低)、第2四分位群、第3四分位群の妊孕性(95%CI)は、それぞれ0.92(0.82-1.04)、0.84(0.74-0.95)、0.99(0.88、1.11)でした。意思決定の自由度の低さは、妊孕性のわずかな低下と関連していました(第1四分位群 vs. 第4四分位群:妊孕性 0.92;95% CI:0.80-1.05)。

私見

職業暴露も問題です。プレコンセプション期の鉛、農薬、抗悪性腫瘍剤への曝露は、妊娠までの期間が延長するとされています。重い荷物を持ち上げること、夜勤、長時間労働については、一貫したデータは得られていません。 
一般的な生活ストレスは、自己報告やバイオマーカーを用いて測定された前向きコホート研究において妊娠までの期間が延長するとされています。 

Wesselink AK, et al. Am J Epidemiol 2018;187:2662–71. 
Lynch CD, et al. Hum Reprod 2014; 29:1067–75. 

企業が成立するためには、一定の規律は必要です。ただし、健康面も含めてjob controlを意識した就労環境作りが必要なんだと感じています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 生活習慣

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

生殖医療分野outcomeにおける一貫性の必要性(Hum Reprod. 2025)

2025.03.11

マウス凍結乾燥精子の長期保存の実現 (Sci Rep. 2025)

2025.02.26

妊婦VTE予防のヘパリン用量は固定でよい?(Obstet Gynecol. 2024)

2024.07.25

性別を選べたら正常胚移植は品質と性別どちらを優先?(J Assist Reprod Genet. 2024)

2024.06.26

赤ちゃんが小さい時には安静が効果的?(Am J Obstet Gynecol. 2024)

2024.06.17

治療予後・その他の人気記事

男性不妊と女性不妊におけるART妊娠の周産期予後の違い(Fertil Steril. 2025)

妊娠中メトホルミン使用は児神経予後と関連しない(Am J Obstet Gynecol. 2024)

非前置胎盤性癒着胎盤のリスク因子(Reprod Med Biol. 2024)

妊娠周辺期HbA1c高値と児の先天性心疾患(Hum Reprod. 2024)

妊娠初期PEスクリーニングの早産との関連(Am J Obstet Gynecol. 2024)

がん患者の妊孕性保存 ASCOガイドラインアップデート2025(J Clin Oncol. 2025)

今月の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2025.09.02

挙児希望男性の初回精液検査・精子DNA断片化率・精液酸化還元電位の異常頻度(日本受精着床学会雑誌. 2024)

2025.09.02

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

男性不妊と女性不妊におけるART妊娠の周産期予後の違い(Fertil Steril. 2025)

2025.09.08

PGT-Aによる体外受精での出産までの期間への影響(Fertil Steril. 2025)

2025.09.09

レスベラトロールにおける生殖機能への影響

2024.10.15