
はじめに
感染は早産リスクの上昇と関連があるとされています。クラミジア・トラコマチス(CT)の早産への関与については先行研究で一貫しない結果となっています。またCT感染だけではなく、細菌性腟症(BV)が早産リスクに与える併存効果について検証することが重要とされています。今回、妊娠中期スクリーニングを行い、CT感染とBVが適切な治療後も早産に与える影響を調査した前向きコホート研究をご紹介いたします。
ポイント
妊娠中期でのCT観戦・BVは、抗菌薬治療を行っても早産リスクを有意に増加させ、特に共感染例では39.5%が治療後に早産となりました。感染による炎症の持続的影響が示唆されました。
引用文献
Wassan Nori, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2025 Aug 30;25(1):904. doi: 10.1186/s12884-025-08080-3.
論文内容
妊娠24-28週の低リスク妊婦を対象とした前向きコホート研究です。現在の妊娠でCTとBV治療歴がない妊婦に対して子宮頚部塗抹検査によりCTとBVの初回スクリーニングを実施し、CT陽性症例(研究群;N=79)とCT陰性症例(対照群;N=235)の2群に分類して分娩まで追跡調査を行いました。BV診断は腟内擦過物の直接鏡検(グラム染色)でclue cellの存在を確認し、Whiff testで診断を確定しました。CT陽性例にはアジスロマイシン1g単回投与、BV陽性例にはメトロニダゾール500mg1日2回7日間投与による標準治療を実施しました。各症例について母体パラメータ(母体年齢、分娩歴、社会経済的階級、BV併存、早産、子宮収縮抑制薬、プロゲスチン製剤、デキサメタゾン使用)および胎児パラメータ(分娩時妊娠週数、出生体重、呼吸窮迫症候群による集中治療室入院)を記録しました。
結果
適切な治療を行ったにもかかわらず、CT陽性症例で有意に高い早産率を認めました(20/79例[25.3%] vs 21/235例[9%])。感染状態による早産結果の層別化では、早産症例のうち6.3%(12/189)がCTとBVともに陰性、12.2%(5/41)がCT単独陽性で治療後早産、19.6%(9/46)がBV単独陽性で治療後早産でした。最も注目すべきは、39.5%(15/38)の早産症例がCTとBV共感染例で治療後に早産となったことです。CT陽性症例では同時期のBV併存率が高く(38/79[48.1%])、治療後の妊娠経過中に子宮収縮抑制薬使用率(21/79[26.6%])、プロゲスチン使用率(20/79[25.3%])、デキサメタゾン使用率(24/79[30.4%])が有意に高くなりました(P=0.03、0.006、0.02、0.009、0.01)。多変量ロジスティック回帰分析では、BV併存症例で有害転帰のリスクが増加し、OR=3.78でした。全体モデル適合度により、CT単独の早産への寄与は3-7%と確認されました。Cochran-Mantel-Haenszel検定では早産におけるBVの相乗的役割が示され、OR=2.55(95%CI:1.44-4.51;P=0.002)でした。
私見
CT単独感染治療後12.2%が早産となり、CTとBV共感染例では治療後39.5%が早産となったことは、単純な病原体除去だけでは早産予防に不十分であることを示しています。感染による炎症反応の持続、腟内細菌叢の生態系破綻、免疫学的変化などが治療後も継続し、早産発症メカニズムに関与している可能性が考えられます。
そう考えると、早期からの介入、そして乳酸菌補充がどのように有害事象に変化をもたらせてくれるか興味深いところであります。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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