
はじめに
PCOS女性では産科的リスクが高いことが知られていますが、相反する結果が存在します。本研究では、凍結胚移植周期における単一正倍数性胚盤胞移植後の妊娠予後において、交絡因子を調整した後のPCOS診断の影響について検討しました。特に肥満との相互作用に注目した大規模な後ろ向きコホート研究となっていますので、ご紹介いたします。
ポイント
肥満を有するPCOS女性では、単一正倍数性胚移植後の出生率と良好な産科予後が有意に低下し、流産リスクが増加します。
引用文献
Kuokkanen S, et al. Fertil Steril. 2025;124(3):558-561. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.03.018.
論文内容
PCOS女性と他の不妊診断を受けた女性(対照群)における単一正倍数性凍結融解胚移植後の妊娠予後を比較した後ろ向きコホート研究です。SART Clinic Outcome Reporting System(2016-2018年)のデータを基に分析を行いました。PCOS群には他の不妊診断を併せ持つ女性も含み、対照群はPCOSを有さない他の不妊診断の女性としました。不育症患者、精巣上体・精巣精子使用患者、ドナー、サロゲート患者は除外しました。主要評価項目は出生率(妊娠>20週の出生)、副次評価項目は良好な産科予後(妊娠37週以降、出生体重2,500-3,999gの生出)および流産(妊娠5-20週)としました。
結果
解析対象は79,416単一正倍数性凍結融解胚移植周期で、うち12,230周期(15.4%)がPCOS女性でした。PCOS女性では肥満の有病率が対照群より有意に高くなっていました(P<0.001)。PCOSの影響が肥満の有無によって異なることが判明しました(P<0.001)。そのため、肥満女性(BMI≥30kg/m²)と非肥満女性(BMI<30kg/m²)に分けて別々に解析を行いました。
肥満女性(BMI≥30kg/m²)の比較では、PCOS女性と非PCOS女性を比較すると、PCOS女性では出生率が67.3% vs 72.0%と低く(aOR 0.82; 95%CI 0.68-0.98)、良好な産科予後も37.1% vs 43.3%と低下していました(aOR 0.81; 95%CI 0.71-0.92)。一方で、妊娠5-20週の流産率は18.5% vs 15.0%とPCOS女性で高くなっていました(aOR 1.24; 95%CI1.03-1.50)。非肥満女性(BMI<30kg/m²)の比較では、PCOS診断の有無による妊娠予後の差は統計学的に有意ではありませんでした。
私見
本研究では多胎妊娠と異数性胚移植という2つの主要な妊娠予後悪化要因を排除した条件下での検討を行っている点が特徴的です。興味深いことに、非肥満PCOS女性では妊娠予後の悪化が認められなかったことから、肥満がPCOSに伴う妊娠リスクの重要な修飾因子であることが示唆されます。PCOSに関連する代謝的特徴、特にインスリン抵抗性や慢性炎症状態が肥満と相まって妊娠予後に悪影響を及ぼす可能性が考えられます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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