男性不妊

2024.06.22

男性の年齢と禁欲期間などが精子DNA断片化と関係

研究の紹介

年齢、禁欲期間、精子形態、精子運動率は精子DNA断片化の予測因子である
Age, sexual abstinence duration, sperm morphology, and motility are predictors of sperm DNA fragmentation.

Yoshiakwa-Terada K, et al. Reprod Med Biol. 2024 May 28;23(1):e12585. doi: 10.1002/rmb2.12585. PMID: 38807753.

精子DNA断片化(SDF)は男性不妊の原因として最近注目されています。しかしながら、SDFは従来の精液検査だけでは十分に評価できません。そこで、生殖医療技術を改善するために、SDFとコンピュータ支援精子分析(CASA)を用いて評価した精子パラメータとの関係を明らかにすることを目的としてこの研究が行われました。

要約

この研究は後ろ向きの観察研究で、不妊治療のために受診した359人の患者を対象におこなわれました。精子のパラメータはCASAで評価し、SDFはTUNELアッセイによって測定し、これらの関係が解析されました。CASAでは、濃度や運動率、精子運動能のパラメータを評価し、精子形態はWHO第5版の基準にもとづいて評価されました。

結果

解析の結果、SDFは、年齢や禁欲期間、特定のCASAでの精子運動パラメータを含む様々な因子との間に有意な相関関係があることが明らかになりました(表参照)。特に、精子運動率が低いことや頭部が異常に大きいことは、高いSDF値と関連しており、これらのパラメータがSDFの予測因子であることが示されました。

結論

結論として、SDFの指標として精子運動率と頭部形態が重要であることが明らかになり、男性の生殖機能を評価する際に有用と考えられました。この結果は、詳細な精子分析が有用であることを示しており、精子の選択基準を改善することによって生殖補助医療での治療の成功率を高める可能性があります。

表. 精子DNA断片化低値群と高値群の臨床的特徴の比較(有意なもののみ) 

パラメータ SDF低値 (SDF < 20%) SDF高値 (SDF ≥ 20%) p-値 
症例数 253 106 
年齢 (歳) 36 (20–54) 38.5 (25–55) 0.005 
禁欲期間(日) 4 (0–30) 6 (0–30) <0.001 
前進精子運動率(%) 58 (0–95) 46.5 (0–97) 0.032 
VSL (μm/s) 42 (0–61) 30 (0–66) <0.001 
高速精子運動率(%)  
[VAP ≥ 25 μm/s] 
20.5 (2–42.3) 19.2 (3.5–37) 0.021 
低速精子運動率(%)  
[VAP < 25 μm/s] 
15.6 (0.2–33.8) 14.3 (1.9–35) 0.045 
LIN (%) 29.7 (4.4–62.6) 26.8 (7.5–52) 0.015 
SDF (%) 10.6 (1.1–19.8) 27.4 (20.1–75) <0.001 

VSL, velocity straight line 
VAP, velocity average path 
LIN, linearity 

筆者の意見

精液検査を手作業で行うと手間や時間がかかるうえに、保険診療での点数も低いという問題があります。多くの生殖医療機関でなんらかの精子自動解析装置を使っているのではないでしょうか?この施設はLensHookという機材を用いていました。当施設では、CASAとして国産のSMASを用いています。SDF測定にはこの研究ではTUNELを用いていますが、当院ではより簡便な精子クロマチン分散化試験を用いております。同様の検討をしてみたいと思います。CASAの結果からSDFをある程度類推可能になっていくと考えられます。そうすれば手間のかかる検査を省くことができるかもしれません。 
35歳を過ぎると精子運動率は低下する方が出てきます。また年齢が上昇すると性活動も低下し、射精の回数が減って禁欲期間が伸びてしまう傾向があると思われます。妊活前には頑張ってまめに射精していただくことも重要と思われます。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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