はじめに
プロゲステロン筋肉注射製剤には天然型プロゲステロン製剤(連日注射が必要)と合成プロゲステロン製剤(長時間作用型:17-OHPC(17α-ヒドロキシプロゲステロンカプロエート))があります。ホルモン調整周期の胚移植時に、これらの製剤で黄体補充を行った際に成績差が出るかどうかを比較検討した報告をご紹介いたします。
ポイント
天然型プロゲステロン製剤よりも合成プロゲステロン製剤による黄体補充の方が妊娠率と出生率ともに高いことがわかりました。
引用文献
Srividya Seshadri, et al. J Reprod Infertil. 2022 Jan-Mar;23(1):46-53. doi: 10.18502/jri.v23i1.8452.
論文内容
2014年2月から2017年3月に英国で胚盤胞移植を実施した896周期を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。456周期は天然型プロゲステロン製剤100mg/日、440周期は合成プロゲステロン製剤341mg/週3回を実施し、ホルモン調整周期胚移植で比較検討しました。
結果
年齢、胚移植数、胚盤胞凍結時期、胚盤胞グレード、子宮内膜厚には二群間で差はありませんでした。
出生率は、合成プロゲステロン製剤と比較して天然型プロゲステロン製剤で生殖医療成績が低下しました。
- 臨床妊娠率:52.6% vs. 59.5% aOR 0.72 (0.55–0.89)
- 出生率:41.8% vs. 50.9% aOR 0.75 (0.63–0.82)
- 流産率:19.2% vs. 14.5% aOR 0.21 (0.13–0.42)
出生時週数と出生体重は両群で差がありませんでした。
私見
合成プロゲステロン製剤は早産予防のために使用される薬剤です。
プロゲステロン受容体、グルココルチコイド受容体への結合、またはプロゲステロン応答性遺伝子の発現は、合成プロゲステロン製剤で有利とは考えにくく、血中濃度や他の薬理作用が影響している可能性がありそうです。
筋肉注射製剤は身体への負担も大きいため、回数が少なくて済むのは良い点ですね。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。