体外受精

2023.11.17

卵丘細胞-卵母細胞複合体バイオマーカーの現状(J Assist Reprod Genet. 2023)

はじめに

卵丘細胞は卵子・受精胚の発育に重要です。卵丘細胞-卵母細胞複合体(cumulus-oocyte complex)のバイオマーカーを生殖医療成績の予測因子として使えないかという取り組みは複数実施されてきましたが、2023年現在臨床応用には至っていません。 臨床試験をまとめたシステマティックレビューをご紹介いたします。

ポイント

臨床応用されていませんが、卵丘細胞からの遺伝的バイオマーカーは、卵子の質(CAMK1D、PFKP、HAS2、VCAN、GDF-9、BMP-15、PTGS2)、受精胚の質(GREM1、PTGS2、HAS2)、および継続妊娠率(GDF9、BMP15、VCAN)と関連していました。

引用文献

Gaelle Massoud, et al. J Assist Reprod Genet. 2023 Nov 10. doi: 10.1007/s10815-023-02984-9.

論文内容

2022年11月まで、PubMed、Embase、Scopus、Web of Scienceを用いて包括的検索(英語のみ)を行いました。卵丘細胞に伴う遺伝的バイオマーカーを卵質、胚質、および受精率、着床率、継続妊娠率、出生率を含む臨床転帰の3つを対象とした研究を基準としました。

結果

条件を満たした446研究のうち42研究を対象としました。
19研究が、卵丘細胞の遺伝学的および生化学的バイオマーカーと卵質を評価していました。卵子の質は、カルシウムホメオスタシス(CAMK1D)、グルコース代謝(PFKP)、細胞外マトリックス(HAS2、VCAN)、TGF-βファミリー(GDF9、BMP15)、およびプロスタグランジン合成(PTGS2)をコードする遺伝子の卵丘細胞におけるmRNA発現増加と正の相関がありました。
19研究が、卵丘細胞の遺伝学的および生化学的バイオマーカーと胚質を評価していました。受精胚の質は、細胞外マトリックス(HAS2)、プロスタグランジン合成(PTGS2)、ステロイド生成(GREM1)をコードする遺伝子の卵丘細胞におけるmRNA発現増加と正の相関、ホルモン受容体(AMHR2)をコードするmRNA発現低下と正の相関がありました。
22研究が卵丘細胞の遺伝学的および生化学的バイオマーカーと生殖医療結果を評価していました。細胞外マトリックスをコードする遺伝子(VCAN)およびTGF-βファミリー(GDF9、BMP15)の発現増加は、継続妊娠率と正の相関がありました。

私見

最近、さまざまな体外受精成績を改善するための検査が増加してきています。
着床前検査もそうですが、あくまでtime to pregnancyを早める検査であり、採卵あたりの出生率を上昇させる術ではありません。ただし、卵子の質を示す卵丘細胞からの遺伝的バイオマーカーが商業的になっていければ、適正な卵巣刺激の探求が進む可能性もあります。変化に取り残されないように知識のアップデートをしていかなければと感じています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 総説、RCT、メタアナリシス

# 卵子の評価

# 胚質評価

# マーカー・遺伝子

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

移植前情報(体外受精)に関連するタグ

# LUF

# 子宮内膜症

# 妊娠高血圧症候群

# ロング法、ショート法

# 総説、RCT、メタアナリシス

# プロゲステロン/プロゲスチン

# 子宮形態異常

# 反復着床不全(RIF)

# 体重、BMI

# 費用対効果

# 子宮鏡

# 受精卵の評価

# 排卵周期下胚移植

# 胚質評価

# AI・統計的手法

# 流産、死産

# 染色体

# 排卵誘発、トリガー

# 予防介入

# 疫学研究・データベース

# 手術

# 生活習慣

# 胚盤胞

# 周産期合併症

# インスリン抵抗性、HOMA

# 精子DNA損傷検査

# 培養液

# 出生児予後

# 異所性妊娠

# タイムラプス

# 媒精(IVF)

# 基礎研究

# 黄体補充

# 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)

# ビタミン

# 新鮮胚移植

# がんと生殖医療

# 胎盤異常

# 不育症(RPL)

# ドナー・サロゲート

# クロミフェン、AIなど

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# ホルモン調整周期下胚移植

# 初期胚移植

# 顕微授精(ICSI)

# 低刺激排卵誘発法

# 慢性子宮内膜炎

# ハイリスク妊娠

# サプリメント

# 帝王切開

# メトホルミン

# 凍結融解胚移植

# 細菌性膣症

# 帝王切開瘢痕症候群

# ラクトバチルス

# 年齢素因

# 多胎

# 子宮内細菌叢検査

# 凍結受精卵

# 卵子の評価

# 精液所見

# 胚移植(ET)

# 子宮内膜ポリープ

# 透明帯孵化補助(AHA)

# 卵巣刺激

# マーカー・遺伝子

# hCG

# 子宮内膜厚、形態

# 妊娠糖尿病

# 良性腫瘍

# 卵巣予備能、AMH

あわせて読みたい記事

PGT-Aは誰に実施されている?米国リアルワールドデータ(Hum Reprod Open. 2026)

2026.09.21

Nugent scoreは子宮内膜の細菌叢を反映する?(当院関連論文:Front Endocrinol. 2026)

2026.09.17

初回体外受精前の子宮鏡検査は出生率を改善する?inSIGHT試験(Lancet. 2016)

2026.07.13

既往帝王切開が体外受精治療成績に与える影響(Am J Obstet Gynecol. 2026)

2026.07.03

精子DNA断片化はPGT-Aの結果に影響するのか?―胚染色体の正倍数性と男性因子の新たな視点 (Eur J Med Res、2025)

2026.05.02

体外受精の人気記事

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

SEET法は凍結融解胚移植の成績を悪化させる可能性あり?(Sci Rep. 2025)

2026.03.30

凍結融解胚盤胞移植後7-11日目の血清hCG値出生予測(F S Rep. 2025)

2026.01.23

ART不成功におけるタクロリムス治療(J Reprod Immunol. 2026)

2026.02.27

45歳以上の体外受精は生児を授かる治療としては「無益」・・・(Fertil Steril. 2022)

2022.06.24

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2024年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2026.09.10

千葉県「早期不妊検査費助成事業」が2026年10月1日から始まりました―夫婦ふたりで不妊検査を受けると、1組につき上限3万円まで助成―

2026.10.01

我が国の統計からの興味深い情報のご紹介~男性は何歳まで子供を作ることができるのか~

2023.06.03

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

卵子の大きさ

2025.03.08