男性不妊

2025.10.04

男性不妊症とExome sequencing (Eur Urol. 2025)

ガイドラインの紹介

日本語タイトル 

欧州泌尿器科学会(EAU) 男性性機能および生殖の健康に関するガイドライン:男性不妊症に関する2025年改訂版 

英語タイトル 

European Association of Urology Guidelines on Male Sexual and Reproductive Health: 2025 Update on Male Infertility. 

Minhas S, 他. European Association of Urology Guidelines on Male Sexual and Reproductive Health: 2025 Update on Male Infertility. Eur Urol. 2025 May;87(5):601-616. doi: 10.1016/j.eururo.2025.02.026. PMID: 40118737.

はじめに

非閉塞性無精子症(NOA)の遺伝学的原因とその頻度について、Cioppiらのreviewによると、原因不明が最も多く73%、染色体異常が15%、AZF欠失が7%、TEX11異常が1%,そのほかの単一の遺伝子異常が4%とされています(参考文献1)。塩基配列決定の手法が発達しWhole-exome sequencing(WES)など全ゲノムを検索できる技術により、多数の単一の遺伝子によるNOA原因遺伝子が同定されてきています(参考文献2)。欧州泌尿器科学会のMale Sexual and Reproductive Healthのガイドラインの中で男性不妊に関する部分のアップデートが行われ(参考文献3)、新たに記載されたもののひとつに、Exome sequencingがあります。 

男性不妊についてのExome sequencingの役割について、前述のガイドラインでの記載 

無精子症(NOA)の男性に対する全エクソーム解析(whole-exome sequencing, WES)の診断的意義は急速に高まっていて、男性不妊の単一遺伝子性原因、男性不妊に関与する可能性のある遺伝子機能に影響を与える遺伝的バリアント、さらには候補遺伝子が明らかになりつつあります。精子運動異常や形態異常を有する男性に対するエクソーム解析の複数の症例対照研究では、繊毛疾患や精子鞭毛の表現型、あるいは特定の精子形態に関連するパネル検査に組み込むことが可能な有意な遺伝的バリアントが同定されており、重度男性不妊症の診断における遺伝子型解析の重要性が強調されています。これらの知見は、原因不明の不妊症やNOAに対してエクソーム解析を導入することで、診断および患者管理の改善につながる可能性を示唆していますが、これらの検査の臨床応用は依然として不明確です。 

このように特定の遺伝子変異や一塩基多型が男性不妊の原因となっていて、その候補遺伝子群があらたに同定されてきていることになります。参考文献2は、当施設が公表した兄弟のNOAの症例報告ですが、そのDiscussionの中で、単一遺伝子の異常によるNOAやその家系について取り上げています。ご参考にしていただければと思います。 

次回のコラムでは、このガイドラインに引用されているTEX遺伝子群の研究をご紹介できればと思います。

参考文献

  1. Cioppi F, Rosta V, Krausz C. Genetics of Azoospermia. Int J Mol Sci. 2021 Mar 23;22(6):3264. doi: 10.3390/ijms22063264. PMID: 33806855. 
  2. 寺岡香里, 大内久美, 田島麻記子, 川井清考, 平岡謙一郎, 石川智基, 小宮顕. 非閉塞性無精子症を呈し, 顕微鏡下精巣内精子採取術を行い, 生児を獲得した同一家系内の兄弟2例. 日本受精着床学会雑誌 40 (1) 90-96, 2023. 
  3. Minhas S, Boeri L, Capogrosso P, Cocci A, Corona G, Dinkelman-Smit M, Falcone M, Jensen CF, Gül M, Kalkanli A, Kadioğlu A, Martinez-Salamanca JI, Morgado LA, Russo GI, Serefoğlu EC, Verze P, Salonia A. European Association of Urology Guidelines on Male Sexual and Reproductive Health: 2025 Update on Male Infertility. Eur Urol. 2025 May;87(5):601-616. doi: 10.1016/j.eururo.2025.02.026. PMID: 40118737. 

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 無精子

# マーカー・遺伝子

亀田総合病院 泌尿器科部長

小宮 顕

亀田総合病院 泌尿器科部長(男性不妊担当) 生殖医療専門医・生殖医療指導医。男性不妊診療を専門的に従事する。本コラムでは男性妊活の参考になる話題を紹介している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

精巣で働くTEX遺伝子と男性不妊のつながり (Andrology、2024)

2025.10.18

男性因子が胚形態動態学的パラメーターに与える影響(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.10.15

加齢が精液とART胚発育スコアに及ぼす影響(Reprod Med Biol. 2025)

2025.08.04

精子凍結保存は顕微授精後の生殖医療結果に影響を与える?( Hum Reprod. 2023)

2023.01.25

男性不妊の人気記事

日本から男性妊活用抗酸化サプリメントの最新エビデンスです 

2024.02.10

射精から時間が経つと精液検査所見は悪化する?

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

ICSIで受精しないのはなぜ?精子の関与についての最新報告 (Hum Reprod, 2025)

2023.01.21

精液所見正常症例での精索静脈瘤手術_その②(論文紹介)

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10

2025.12.31

2025年を振り返って:妊活コラム創設初年

2025.12.31

腟潤滑ゼリーは妊娠率に影響する?

2022.01.24