体外受精

2022.12.15

新鮮胚盤胞移植では黄体期初期/中期プロゲステロンが成績に影響する? (Hum Reprod. 2022)

はじめに

新鮮胚移植時の血清プロゲステロン値を測るべきかどうかは、賛否が分かれるところです。この報告は、採卵3日目と5日目のプロゲステロン値の変化が継続妊娠率に影響を与えていそう、とする前向きコホート研究です。 

ポイント

採卵3日後から採卵5日後までの血清プロゲステロン値の低下は、継続妊娠率が約2倍低下します。新鮮胚移植の黄体期プロゲステロン値が生殖医療結果に関与するかどうかの是非は意見が分かれているので、症例ごとに検証していく必要がありそうです。 

引用文献

Esra Uyanik, et al. Hum Reprod. 2022 Dec 7;deac255. doi: 10.1093/humrep/deac255. 

論文内容

558症例中、基準を満たした340症例を対象とした前向きコホート研究です。 

各症例とも研究参加は1回のみとし、継続妊娠率は妊娠12週以降の心拍陽性症例としました。卵巣刺激にはGnRHagonist法(53症例)またはGnRHantagonist法(287症例)が使用され、採卵翌日からプロゲステロンゲル90mgを黄体補充に用いました。血清プロゲステロン値は、排卵誘発日、採卵当日、採卵3日後、採卵5日後、採卵後14日後に全症例で朝に測定しました。ΔP4(Δプロゲステロン)値は、採卵5日後から採卵3日後のプロゲステロン値を引くことで算出しました。 

適格基準 
①女性年齢40歳以下 
②BMI 35以下 
③卵巣予備能に関係なく回収卵子3個以上を採取 
④デュアルトリガー症例を除く 
⑤排卵誘発日の血清プロゲステロン>1.5 ng/ml症例を除く 
⑥初期胚移植を除く 

結果

排卵誘発日、採卵当日、採卵3日後、採卵5日後、採卵後14日後の血清プロゲステロン値の中央値(最小値-最大値)はそれぞれ0.83 ng/ml(0.18-1.42)、5.81 ng/ml(0.80-22.72)、80.00 ng/ml(22.91-161.05)、85.91 ng/ml(15.66-171.78)、13.46 ng/ml(0.18-185.00)でした。血清プロゲステロン値は、採卵当日から採卵3日後までは全例上昇しましたが、採卵3日後から採卵5日後までは約34.1%の症例で低下しました。排卵誘発日、採卵当日、採卵3日後の血清プロゲステロン値の中央値(最小値-最大値)は、ΔP4低下群とΔP4増加群で同等でしたが、ΔP4低下群では採卵5日後のプロゲステロン値が低くなりました[69.67 ng/ml (15.66-150.02) vs. 100.51 ng/ml (26.41-171.78); P < 0.001]。ΔP4低下群はΔP4増加群に比べて継続妊娠率が低下していました[33.6% vs. 49.1%, OR; 0.53, 95% CI; 0.33-0.84; P = 0.008]。継続妊娠率の低下は生化学妊娠+流産率の増加ではなく着床率の低下に起因していました。ΔP4低下群は低下の大きさが継続妊娠率の予測因子(aAUC = 0.65; 95% CI; 0.59-0.71)でカットオフ値は-8.73 ng/mlであり、感度と特異度はそれぞれ48.7%と79.2%でした。BMI(OR; 1.128、95% CI; 1.064-1.197)はΔP4低下群の唯一の予測因子でした。ΔP4増加群は増加の大きさが継続妊娠率には弱く関連していました(AUC = 0.56, 95% CI; 0.48-0.64)。ロジスティック回帰分析では、採卵5日後の血清プロゲステロン値ではなく、胚盤胞形態(OR; 5.686, 95% CI; 1.433-22.565; P = 0.013)とΔP4(OR; 1.013, 95% CI; 0.1001-1.024; P = 0.031)が独立予測因子でした。 

私見

最近も新鮮胚移植の血清プロゲステロン値と妊娠率との関係を調査した報告は複数あります。当然ですが、低いより高い方が良さそうな印象を持ちます。 

・Thomsen LH, et al. Hum Reprod. 2018. 
同一患者の比較ではありませんが、血清プロゲステロンの採卵2/3日後と採卵5日後の最適なwindowは18.9-31.5 ng/mlおよび47.2-78.6 ng/mlで出生率が高くなるという報告 

・Benmachiche A, et al. PLoS One. 2021. 
採卵7日後の血清プロゲステロンが41~60ng/mlが出生率が高くなるという報告[OR; 2.73, 95% CI; 1.29-5.78, P < 0.008] 

・Netter A, et al. PLoS One. 2019. 
採卵2/3日後の血清プロゲステロン値が>79.2ng/mlは、36.2-79.2 ng/ml[OR; 0.40, 95% CI; 0.18-0.91; P = 0.028]または<36.2 ng/ml[OR; 0.10, 95% CI; 0.01-0.52; P = 0.006]と比較して、出生率が高くなるという報告 

・Rozen G, et al. RBMO. 2022. 
採卵5日後の血清プロゲステロン値は生殖成績と関連しなかったという報告

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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